梅雨入りと幸せ。

ポピーの騎士

第1話 夜明けの雨

 五月、皐月

 雨の気配が憂鬱を誘う、そんな時分だ。

 俺は多分に漏れず憂鬱さを抱えて身を起こす。

「また、ソファで寝たのか」

 時計を見ると、昼前だ。

『兄、起きたの?』

 息が詰まる。

『ごーはーんー』

 未だに寝起きは心に隙間ができる、その隙間に過去はあまりに嵌り込むのがうまい。

「ははっ」

 ため息のように自嘲が漏れる。

 カーテンから差し込む陽の光は薄く暗い、今日も雨なのだろう。

 軽く、小さく雨音が聞こえてきた。


 

 遠雷が静かに響き、雨音が少し強くなる。石畳を靴が叩く音と傘に雨が当たる音。

 

 黒い傘をさし、歩道を歩く。

 正午を周り1時間が過ぎていた。

 小雨が気づけば土砂振りになっていた、季節の変わり目とは言え重い頭が更に重くなる。

 トラックが横を過ぎ、小さく飛沫を上げる。

 街路樹の先、庭園がある。木々の更に奥、ぽつんと置かれたベンチ。そこに独り少女がいた。

 

 

 

 

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