領地占領作戦

あの時はまったく意味がわからなかった。わざわざ世界が繋がらないといけない理由を。私はきっと間抜けな顔をして、別の考え事をしながら父の話を聞いていたことだろうと思う。あの時の私はどこまでも人任せで、体の強い父さえ居れば私はいつまでも生き続けられると思っていた。


だからこそ、父が家に帰ってこなかったあの日の夜は心底絶望をしていた。顔は青ざめ、何度も嘔吐を繰り返した。しかし、時間が経てども経てども父は帰ってこない。


鋭いナイフで後ろから刺されるように、突如として私の未来が存在しないのではないかという大きな不安で出来た刃をつきつけられたんだ。



そんな時、父が語ってくれた「世界」の話を何度も思い出して心を癒していた。いや、その時だけじゃない。いつだってどんな時も父の話は私の心を安心させてくれた。



今ならわかるよ。お父さん、遅すぎるたかもしれないね………



 ◆

「すごい!すごいですよフィアナさん!どんどん売れてる!!」



敷物の上に積み重ねられた服たちは、あっという間に姿を消した。


言葉なんてなくとも会話が出来た、売買が出来たのだ。自分でやっておきながら私も私で実は相当驚いているのだということは胸の奥に隠しておきながら、最後の服が売れるのを気長に立ったまま待っていた。



すると、また1人の客がやってきた。



「買っていきますか?」



女性の客で、服装は………下から上までゆっくり見ると、その服の布はこのお店で売っている布と酷似しているのがよくわかった。似ているどころか恐らく同じものを使用している、そんな確信さえあった。



「アーロンさん!またいらしてくださったんですね!ありがとうございますっ!」



「知り合いの方でしたか?」



「はい、先ほど言った友人です!アーロンさんといいます!」



「久しぶりですね、ゴッドマンさん。布は売れましたか?」



「はい!このフィアナさんという方のご協力のおかげで………!」



「フィアナさん、ですね!よろしくお願いします、私はアーロンといいます。」



「あ、よろしく、お願いします。」



私はただお店の手伝いをしただけだが何か思った以上に話が広がってきたような感じがして、少し緊張で胸がドキドキした。なぜならこの人の見た目はサーンキヤ族ではないのに、なぜかサーンキヤの言葉を話していたからである。何かが、動き出そうとしているようなそんな予感がした。



「あの、なぜサーンキヤの言葉を知ってるんですか?」



「私は世界の各地を支援しているボランティア団体の支援者でして、そのボランティアの仕事の中で関わるであろう人々の言語はあらかじめ勉強をしているんです。」



「あの白い大地を、支援してくださってるんですか?まさか………本当に?」



「支援をしている、というか支援をしたいんですが中々あの場所に入るには厳しくて、どうも敵わないんです。」

「というか、フィアナさん。あなたが本当にサーンキヤ族ならばあの白い大地からここまでやってきたということですよね?恐らく犬ぞりか何かで。」



「はい、そうですけど。」



「ならば、約束していただけますか?あの白い大地にはもう戻らないでください。」



「あ、実は私もそのつもりでここまで来たので大丈夫ですよ。まあアザラシが売れなければ終わりですけどね。」




「とにもかくにも、何があっても絶対に戻ってはなりません。ある国が、あの白い大地を領地にしようとしてサーンキヤ族を片っ端から殺戮をしているのですから。」



「そんな、やっぱりあの人たちは………」



「まさか出会ったんですか?その国の人々に。」

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