未来視
悠月と別れたあとに俺はバドミントン部の顧問の先生の所へといった。連絡の方を取り合っていたが、部活を辞めることを報告した。
先生は本当に残念そうな顔をしていたが、生命が無事で良かったと言ってくれた。
もちろん部活の同期や先輩たちにも挨拶をした。
みんな残念そうな顔をしていたし、中には泣いてる部員もいた。俺はこの部活入って良かったと思えた。
その後は特に用事はなかったので帰ることにした。
「部活辞めて悲しいけど、心がすっと軽くなった気がするなぁ…」
まだみんなが部活とかをやっている中で帰宅するのは不思議な高揚感がある。もうきつい練習をしなくていいからかもしれないし、よく分からないが、心が落ち着いている。
今日は真由理は料理部の活動で銀仁朗は当然部活なので、1人で帰宅していた。
通学路に咲いてる桜は散り始め葉桜になりはじめていた。
「あー、暇だよなー」
1人で帰る帰り道は物寂しい。もちろん他にも帰宅している生徒もいるし、自分だけでは無いのだが孤独感も感じてしまう。
俺の視線の先には同じように帰宅している女子生徒が2人いた。だからなんだということなんだが、通学路が同じっぽいので後ろの方を歩いていた。楽しそうに会話をしていた。
その時突然、俺の視界はフラッシュした。すぐに悟った。あれが起こると。
フラッシュが消えると女子生徒たちは変わりないのだが、風景が微妙に変わっていた。
そして強く風が吹き、女子生徒のスカートを乱暴にめくりあげていった。スカートに隠れていた
下着が見える。1人は綺麗な白、もう1人は薄いピンク色であった。
慌ててスカートを押さえる女子生徒たち。そこで再びフラッシュがおきると。先程の視界へと変わった。
「あぁ、また始まったか…」
先程見た映像と同じ風景の所に歩いてきた時、それはおきた。女子生徒たちに向かって乱暴な風が吹き、あの映像同様にスカートがめくれて、下着が露わになっていた。
未来視が発動したのだ。俺が事故で大怪我を負って以来この力が使えるようになった。
とは言いものの、これは任意で発動するものではなく、唐突に起きる。頻繁に視る時もあれば、しばらく見ない時もあり不定期だ。
女子生徒たちは先程見た映像同様にスカート慌てて押さえる。まさに先程視たものと全く同じ。
あえて女子生徒たちに言うのであれば、ご馳走様でしたとでも言っておこう。これは不可抗力であるため俺は悪くない。
「これもうちょっと使えるようになんないのかな?」
未来視はとても便利だが、能力として使えないのなら意味はない。正直今のところどうでもいいようなところで未来視がおきたりしているので意味が無い。能力としてはおよそ20秒から30秒後の未来が視える。
今のところ日常生活では全く役に立っていない。
「今日はいい時に起きたなー」
今日のようなラッキーデイは珍しい。女子生徒たちには悪いが、風を呪って欲しい。
俺も別に視たくて視た訳では無いのだから。たまたまたまそこに女子生徒のパンツがあったと言うだけの話。
「はぁーくだらね…」
ため息つきながら自宅の方へと向かった。
「……。正木くん…」
ブロンズの髪をなびかせ遠目から天哉を見ている人物がいた。天哉にとって憧れの人物である浅倉千紗その人である。
なぜ彼女が天哉を見ているのか分からないが、見つからないように隠れながら見ていた。
先程廊下で天哉を見た後に神楽坂悠月から酷いことを言われた彼女であるが。
「正木くんの家ってこっちなんだ……」
まるで犯人を尾行する刑事のように天哉の後ろをついてくる。そんなことも全く知らず、天哉は気だるそうに歩いていた。
「神楽坂さんあんなこと言われたけど…私は……」
近づくなとまで悠月に言われて落ち込んでいたものの、彼女はめげずに天哉のあとを追っていく。
その行動はどんな目的のためかは彼女自身にしか知らない。
「ただいまー」
家に帰ると特に人がいる気配がなく。誰もいなかった。母親はおそらく買い物にでも行ってるのだろう。あとは妹もまだ学校か。
「はぁー。今から何する?暇なんだけど…」
今まで部活をやっていたこともあるが、こういう何も無い時はすることがなくて困る。、とりあえず洗面所で手を洗ってうがいは済ませたが、何も無い。
リビングのソファにブレザーを煩雑に脱いでネクタイを緩めて気だるげに座る。
リビングには時計の針の音だけが響く。
「んーーーーー」
身体を寝かせて大きく欠伸をする。
浅倉さんと同じクラスか。なんか嬉しいな。去年は違うクラスで目にする機会が多くはなかったが、今度は言うなれば毎日姿を見れる。
こんなに嬉しいことは無い。憧れの人と同じクラスでいられる。これからの学校生活が楽しくなっていきそうだ。
そんなこと思ってきたら、久しぶりの学校の疲れからか、瞼が重くなってきた。
少し仮眠をとるか…。
カンカンカンカン。
少し遠いところなにか叩いている音がする。
サクサクという音もする。
美味しそうないい匂いがする。
キッチンを方を見るとそこにはエプロン姿の浅倉さんがいた。
「え、?どうして浅倉さんが!?」
うちのキッチンになぜかいた。
目を何度も擦って確認する。間違いなく浅倉さんだった。なぜ家に浅倉がいるのか全く意味が分からないが。
「天哉くん。実はお礼がしたくてきっちゃった…。ダメ?」
「いやあの、ダメとかじゃないけど…。というかなんでうちがわかったの?」
落ち着け俺、状況を整理しよう。
ここは間違いなく俺の家。いつも見なれたリビング。いつも見なれたキッチン。間違いなく俺の家。でもそのキッチンにいるのは母親ではなく浅倉さん。
これは夢か夢なのか?
「天哉くん?どうしたの?」
浅倉さんを目の前にして、言葉が何も出てこなくなる。
「いや、あの…。どうして俺の家…」
「天哉くんカレー好き?」
「うん。好きだけど…。じゃなくて!」
分からない。色々なことが分からない。俺の家に浅倉さんが何故いるのか分からないし。キッチンで料理作ってるのも分からないし。もう何もかんもわかんない。
「はいこれ!」
俺の目の前に料理が出された。カレーと言っていたが、そこにあったものカレーはとは言えないような紫色をしたカレーであろうものがあった。
「食べて?」
浅倉さんが上目遣いでそう言ってくるが、それはおよそ料理とは思えないようなグロテスクなものである。
「あ、あの…」
「あ、私が食べさせてあげるね?はい、アーン」
グツグツと煮えたぎるカレー(仮)は俺に迫ってくる。浅倉さんには悪いが全く食欲の湧きそうなものには見えない。
「あ、ちょ、待って!待って!」
問答無用に迫る物体に底知れぬ恐怖が襲ってきた。
「うわあああ!!!!!」
あまりの衝撃に声を叫んでしまう。
すると先程までいた浅倉さんも物体Xも何も無くなっていた。
「いきなり大きな声出してどうしたの?ビックリするよねー浅倉さん?」
いつも聞く母親の声がした。
キッチンの方を見ると母親がいた。驚いた様子でこちらを見てくる。どうやら先程見たものは夢だったらしい。
とんでもない夢を見てしまった。全く肝が冷えたよ。安心して一呼吸をおくと、何やら違和感感じた。先程母親の一言だ。
浅倉さん?先程キッチンの方を見た時に誰か1人みた気がした。キッチンの方向を見ると、いつも食事をとるテーブルの方に先程見た彼女が何故かいた。
「どういうこと?」
何故か借りてきた猫のように大人しい浅倉さんがそこにいたのだった。
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