エレン・クラルティの勘違い 1
一か月も飽きずにわたしの検証実験をしていたリヒャルト様が出した結論はこうだ。
わたしは、人よりも聖女の力が強い。
そして、その力は、絶えず微弱に出ている状態――つまり、癒す対象がいないのに、ちょっとずつ癒しの力がこぼれ出ている状態で、だからこそ人の何倍もお腹がすくし、わたしの出し汁もといお風呂のお湯に癒しの力が付与されたのだろうとのことだった。
あくまで仮説段階だそうだが、リヒャルト様なりに確証を得ているようである。
それを聞いたシャルティーナ様は、癒しの力を使いまくれば食べても太らないのではないかという新たな仮説を立て、実験しようかどうしようか本気で悩んでいるらしい。
「たくさん食べても頑張って癒しの力を使えば太らないってことでしょう⁉」
そんなに太る太らないの問題が重要なのか~、とわたしはかつての聖女仲間を思い出した。彼女たちも年中ダイエットをしていた気がする。ダイエットには終わりがないらしいので、わたしはそんな苦しいことはしたくない。まあ、わたしの場合、ダイエットをはじめたら餓死する未来しか見えないから、したくてもできないのだけど。
でも、そっか~。
確かにわたしは力のコントロールが得意ではなかったけど、常に癒しの力を垂れ流している状態だとは思わなかった。道理ですぐにお腹がすくはずだわ。
ちなみにわたしのこの体質については、リヒャルト様とシャルティーナ様で意見が割れている。
リヒャルト様は、きちんと訓練して、癒しの力の垂れ流し状態を改善した方がいいと言うし、シャルティーナ様はそれで食べても太らない羨ましい体質なんだからこのままでいいのではないかと言う。
わたしはどちらの意見を採用すればいいだろう。
……神様の言うことは絶対だけど、わたしの場合、訓練してもきちんとコントロールできるようになるか怪しいんだよね。細かい調整は昔から苦手なんだもん。
そんな訓練をするよりも、リヒャルト様のお家の子にしてもらうにはどうするかを考える方がわたしには重要である。
こんな素敵な生活(ごはん的に)、逃したくない。
そのためには、リヒャルト様にわたしはそばに置いておくだけの価値があるのだと証明しなくては!
ちなみに一か月――すなわち、三十人の患者をわたしが癒したため、入院患者がほとんどいなくなった病院は現在とっても閑散としているそうだ。
収入的に厳しいそうなので、リヒャルト様が実験に協力してくれたお礼に、寄付金を出しておいたと言う。患者を癒して寄付金も払うなんて、神殿とは逆だね。
データが取れてリヒャルト様はひとまず満足したようなので、わたしの実験は一時中断である。終了でなくて中断なのが悲しいが、結論が得られていないから、終了はしないのだそうだ。仮説でも充分だと思うのに、リヒャルト様は細かい。
「癒しの水」についての実験も中断である。
わたしにしか生み出せないとわかったが、そうすると逆に扱いに困ってしまうため、引き続き「癒しの水」の存在は外部には漏らさないらしい。
リヒャルト様が使用人たちに、もう汲み置く必要はないから下水に流していいと言ったけれど、使用人たちはやっぱりわたしの出し汁をバケツに一杯か二杯、こそこそと回収していっているみたいだ。
リヒャルト様も邸の外に出さないのならばと、この分は大目に見ているようである。
ちなみにわたしの出し汁は動物の怪我にも有効で、この前、馬車の馬が怪我をしていたときに使ったら治ったらしい。
それ以来、馬を洗うときに使用していると聞いた。相手が馬なら別に恥ずかしくないからいいんだけどね。
ベルンハルト様とシャルティーナ様は、あと一週間ほど滞在して王都に戻られるらしい。
さすがに社交シーズンの終わりまで王都の邸を留守にはできないと言っていた。
わたしとしては、シャルティーナ様が帰られる前に、リヒャルト様のお家の子になれる方法をご相談したいところだ。
シャルティーナ様は聖女仲間だからなのか、それともわたしの太らない体に興味があるからなのか、とっても親切でいろいろお話してくれる。きっと相談したらいい方法を教えてくれるはずである。
……よし、リヒャルト様にもらってもらう計画を立てるぞ!
すっかり餌付けされているわたしはもう、リヒャルト様なしでは生きられない運命なのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます