謎は深まる… 3
結果を申しますと、シャルティーナ様の出し汁……もとい、お使いになったお風呂のお湯には、癒しの効果は見られませんでした。
……はあ、そのせいでわたしに何か秘密があると過大解釈したリヒャルト様が、わたしを調べる気満々だよ。
何故だと訊かれたところで、わたしに答えられることはないけれど、だからってわたしの検証実験はひどいと思う。
聖女に、癒しの力は無暗に使わせてはならないとか以前言っていた気がするんだけど、それはどこへ行ったのやら。
わくわくと少年みたいに楽しそうな顔で、わたしに癒しの力を使ってくれないかなんて言っている。
……癒しの力を使うのはいいんだけどね、いいんだけど……実験はやだなあ。
リヒャルト様はまず、癒しの力と空腹の関係性を調べることにしたようだ。
つまり、癒しの力を使った後でわたしのお腹がすくかどうかを確かめるらしい。
そのため、お腹のすき具合も統一した方がいいだろうと言うことになって、毎日、お昼ご飯の一時間後に実験をすることになった。
シャルティーナ様も興味津々で、わたしの実験にお付き合いしている。
シャルティーナ様は子供を産んでから太りやすい体質になったそうで、食事の量と体形が比例しないわたしの秘密を暴こうと必死だ。
……秘密なんて何もないと思うのに。
わたしの癒しの力を使うには、怪我人や病人が必要なのだが、そこはさすが領主様である。領内の病院に掛け合って、動かしても大丈夫な患者を毎日一人こちらへ向かわせてくれることになった。
だだし、神殿にばれたら面倒くさいので、口の堅い人間に限るという条件を付けたようだが、病院としても患者としても、聖女が癒しの力を使うならと二つ返事で了承したそうだ。
リヒャルト様は細かくデータを取りたいとかで、患者のカルテも一緒に持って来させては、怪我や病気の度合いがどの程度かも逐一細かくメモしている。
わたしの空腹度合いと怪我や病気の大きさをグラフにするのだそうだ。
……リヒャルト様って、やっぱり研究者気質だよねえ。
そんなものを調べて何が楽しいのだろう。
検証実験をはじめて五日。
リヒャルト様は集めた五人分のデータを見ながら、ふむ、と頷く。
「強い癒しの力を使った方が、空腹度合いが大きいようだな」
わたしの空腹度合いをどうやって測っているのだろうか。
よくわからないけど、癒しの力を使ったあとはたくさんケーキをくれるから、わたしはついついそれにつられてしまう。悲しい。
「君のその食欲は、聖女の力の使い過ぎではないのか?」
「でも、使っていないときもすぐにお腹がすきますよ?」
「……確かにな」
リヒャルト様と出会って、ここに到着するまでもしてからも、しばらくの間癒しの力は使っていなかった。
でもわたしはすぐに空腹になったし、もりもりご飯もおやつも食べていたから、わたしにはどこに差があるのかがさっぱりわからない。
「君のその食欲はずっと昔からか?」
「もぐもぐもぐ……、聖女の訓練を開始してからは、ずっとこうです」
ご褒美のケーキを頬張りつつ答える。
「では、聖女の訓練を開始する前はどうだろう」
「んー……、普通だった気がします。孤児院にいたのでそんなにたくさんのご飯はなかったですし、別に空腹が原因で倒れたりもしなかったはずです」
「やはり、聖女の力が関係していそうだな……」
そうなのかもしれないが、それならば何故力を使っていなくてもお腹がすくのだろう?
リヒャルト様は集めたデータを睨みながら、非情にも言った。
「ふむ。それを理解するにはまだデータが足りないな」
わたしの検証実験はまだまだ続くようである。しょんぼり。
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