第2話 『追放 & 剥奪』

「なにぃ!? 『婚約破棄』されただとぉ!?」


 ドンッ! お父様にテーブルを力任せに殴られ、私の両肩がビクンと跳ねた。そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん(T_T) こっちはただでさえ、傷心中なのにさ……。


「呆れた……やたら帰りが早かったと思えば、おめおめと逃げ帰ってきたのね。この日の為、高価なドレスとヒールをあしらってあげたのに、一晩で無駄にするなんて」


 逃げ帰ったって……もう少し別の言い方をしてもいいんじゃない、お母様?


 それに皇宮から家まで、結構な距離がある。私は慣れないヒールで足を痛めながら、やっと帰って来れた。

 玄関の扉を開けるなり、私は着替えることすら許されず、お母様に居間まで『連行』された( ノД`)……


「ヒメナっ! 自分が何を言ってるのか、分かっておるのか!? ベオグラード第一皇子との縁談に漕ぎ着けるのに、我々がどれほど心血を注いだと思っている!?」


「そんなこと、私に言われても困ります! それに先ほど申し上げた通り、婚約を破棄された原因は私にも見当がつきません。急にレオ様のお心が変わったとしか……」


「まぁ! 親に眉唾物の嘘を吐くなんて、そんな娘に育てた覚えはありません!」


 私の細やかな抵抗も、お母様に一刀両断された。


「嘘じゃなくて、私はありのままに……」


「もうよいッ!」


 またもテーブルを力任せに殴るお父様。手が鬱血してるけど、ここまで憤慨される意味が分からない。


貴様・・が、いかに『無知無能』か思い知ったワッ! 手塩に掛けて育てたのに、恩を仇で返されるとはナッ! これ以上、その間抜けた面を見るのも我慢ならん! 即時『追放』とするッ」


 え………………?


 私はまたも何を言われたのか、すぐに理解できなかった。追放って、実の娘を……!?


「さらに付け加えると、貴女にバレンシアの名は『相応しく』ありません。というか、名乗ってほしくないので、子爵の身分を『剥奪』します。要するに『勘当』ですね」


 はらわたが煮え繰り返っている父とは裏腹に、氷のように冷たく言い放つ母。一体何をすれば、こんな仕打ちを受けるんだろ……。


 ただ一つだけ分かったのは、優しい両親に戻ることは『二度とない』ってこと。


 この『毒親』にとって大事なのは、私よりも『家の名声』だった。私の中で、プツンと糸が切れた。


「分かりました。準備が整い次第、出て……」


「貴様は何を言っておる? 『即時』という意味すら理解できぬ阿呆か? 縁を切ったからには、部外者・・・以外の何者でもなかろう? この狼藉ろうぜき者を直ちにひっ捕らえィ!」


 父だった・・・人がパチンと指を鳴らすと、居間の扉がバン! と開いて複数の守衛が雪崩れ込んできた! 有無を言わさず私は頭から土嚢どのう袋を被せられ、視界を塞がれた!


 さらに手足もロープで縛られ、人間扱いとは思えなかった。これじゃ『物以下』の扱いじゃん!


「お館様。コレ・・の『処分』は如何いか程に?」


「適当な山中に『廃棄』すればよい。もう会うこともないと思うが、間違っても『戻って来よう』などと思うな。その時は容赦せぬゾッ!」


 元『父』だった人間の罵声など、ほとんど聞こえてなかった。嗚呼……『悪夢ユメ』なら早く覚めて!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る