捨てられ令嬢は、逞しく生きる ~追放された私は、真実の愛に目覚めた皇子と『駆け落ち』します。私たちは愛を育みますので、どうぞお構いなく~

たくミン☆

第1話 『婚約破棄』

      【プロローグ】


「ヒメナ……悪いが、貴女との婚約を『破棄』させてもらいたい」


「え…………?」


 私ことヒメナ・アンジェロ・バレンシアは一瞬、目の前の皇子レオ・ネフィリム・ベオグラード様から何を言われたのか分からなかった。


 ここは華やかな皇宮ベオグラード。今日は私にとっても重要な『婚約儀礼』の日だった・・・


 私たちの『婚約』は注目されていたけど、レオ様の『宣言』後、周りからクスクスと失笑が漏れた。


 私の生家せいかバレンシア家は、皇国とゆかりがある子爵ししゃくの家柄だ。私自身もレオ様とは『幼馴染み』で、家族ぐるみで交流があった。


 レオ様は幼い頃、よく私の『おままごと』に付き合ってくれた。将来は私を『お嫁さん』にもらってくれる、なんて言ってたっけ。


 学園時代も私とレオ様は、一緒に過ごす時間が多かった。皇族でありながら、誰にでも公平に接するレオ様に私も次第に惹かれていった。


 そして、卒業式のあの日……


 私は意を決して、レオ様に『告白』した。返事はなんとOKで、私たちは付き合うことになった。交際から一年が過ぎ、今日この日を迎えたというのに……。



「レオ様、何故ですか……? 私に何か至らない点がありましたか?」


「………………」


 私が訊いても、レオ様は黙ったままだ。どうして何も言わないの……!?


 そんな私の心情など知るよしもなく、周囲からは『あることないこと』がささやかれた。


――まぁ可愛そうに。私は最初から『不釣り合い』だと思ってたのよ。


――確かにねぇ。いくら『幼馴染み』と言っても、ちょっと『無理』があったわ。


――ヒメナって『どこにでもいる』娘よねぇ。皇子に見初みそめられていたとでも思ってたのかしら? クスクス(笑)


 ついさっきまで、お祝いムード一色だったのにこの『手の平返し』よう。私は恥ずかしくて、今すぐ消えたい気分だった。


 けど……このままじゃ引き下がれない。私は『間違いなく』レオ様と一年間、お付き合いしていたんだ。


 あの甘い日々まで、嘘だなんて思いたくない……!


「レオ様……せめて、理由だけでも聞かせてくださいませ! 婚約を破棄するのに相当な『理由』を……!」


「ヒメナ……すまない。理由それは言えない」


 なっ…………


 私の頭の中は、真っ白になった。レオ様にとって、私は『その程度』の存在だったの……!?


 私はそっと顔をうかがうも、レオ様はただただ『申し訳なさそう』な顔をしていた。


 これすらも『演技』かもしれない……私は居ても立ってもいられなくなり、ドレスの裾を摘まんで一目散にその場から逃げ出した。

 周囲から、侮蔑と嘲笑の声……けど、私は構わず走り抜けた。



 信じられなかった。


 信じたくなかった。


 あなたの『心』は、もう私を『視てない』のね…………



 こんな思いをするくらいなら告白した時、こっぴどく振ってほしかった……。そうすれば、私も『諦め』がついたのに……。


 私は長い階段を、転げるように駆け落ちた。丁度、午前0時をしらせる鐘が皇宮に響き渡る。



 私にとって、魔法が解けた瞬間だった。



 ◆ ◆ ◆


「すまない……ヒメナ」


 ヒメナを見送ったレオの表情は、どこか『寂しげ』だった。


「あらあら。レオ様も『罪な』御方ですこと」


 一人の女性が、からかうような口調で言った。


「君も人が悪いな。ずっと見ていたのか? ロセナラ」


 レオにそう呼ばれた女性……ロセナラ・ヘクセ・プロブデス。皇宮にも絶大な影響を持つ公爵家で、彼女はその一人娘だ。


「これは失礼。あまりにも『滑稽』なものでして。しかし、あのヒメナの『見当違い』もはなはだしいこと。『たかだか』子爵の身分で、レオ様との婚約が成立すると思っていたのかしら?」


「………………」


「ウフフ、そう睨まないでくださいませ。ご自身がどう立ち回れば、皇宮にとって『有益』なのかご存知でしょう?」


 ロセナラに指摘され、レオは黙りこくった。


「フフフ……結構ですわ。ようやく、私の名を広く知らしめる時がきました。オホホホホホホッ☆」

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