第3話 同級生

図書館に着いた。ひとも、まばらに机に向かって、作業している。

「いまから、勉強する?なにか、小説でも、のぞいていかない?」

「わかった!」

小説のコーナーには、変わった本がずらり、ならんでいる。

「『バナナをかじったら』だって!これ、どんな内容なんだろうね!」

「わからないね」

「こんなのもあるよ!『いいひとのやめかた』」

「いいひと、やめたらだめよ」

「そだね」

なんて、言ってると、

「出た!『人間失格』!これ、途中でやめんたんだよね」

「わたし、最後まで読んだよ」

「へ~!すごい、よく、こんな辛気臭いの最後まで、読んだね!」

「人間できてますから」

「あはは!」

「じゃ!行こうか、自習室!」

コーナーに、ふたつ、ちょうど、ならんで席が空いていた。ぼくが、端に座った。

かばんから、介福の過去問を取り出した。

「もう、過去問やってるの?」

「うん!もう、実戦あるのみ!」

「どこかで、つまずいちゃうよ」

「そのときは、そのとき!別の参考書買いにいく!」

「行き当たりばったりだね」

「介福の試験て、そんなもんだよ」

「ふーん」

彼女は、そういって、自分用のノートを取り出した。

「なに、書いてあんの?」

「わたしのまとめたこと!」

「すごいね」

「うん!」

勉強をはじめた。あまり、他のことばっかり、目にいってると、彼女にあきれられる。そう思って、自分のことに集中しはじめた。彼女は、自分用ノートになにか、書き込んでいる。きれいな、かわいい字をしていた。ぼくは、あまり、女の子の字を見たことがない。

「前田くん?」

「え!」

堀田という女がぼくのところにやってきた。小学校の同級生だった。

「久しぶりねー」

堀田は、親しげに話しかけてきた。

この子に、小学校のころ、告白して、うやむやにされて、進級したんだ。

「前田くんの彼女?」

「そうだよ」

「へ~!かわいいね」

「山本と言います。こんにちは」

彼女は、堀田の勢いに押されていたが、あいさつをかかさなかった。

「こんにちは。前田くんね。かわいいでしょ?」

なにを、いまさら。もう、ぼくと、おまえとは関係ないじゃないか。

堀田は、続けた。

「前田くんね。わたしと、となりの席になったとき、漢字の丸つけで、わたし間違えてんのに、全部、丸にして、先生に怒られてんのよ」

「やめろよ」

ぼくは、怒ったが、堀田は続けた。

「給食の牛乳。わたし、飲めないから、いつも、前田くんにあげていたの。いつも、わたしの代わりに飲んでくれて」

山本さんが、少しふくれた。

でも、ふくれた顔もかわいい、と思った。

「前田くん、なんの勉強してるの?これ、介福じゃない!わたしも、介福、受けようと思ってるの。がんばろう!」

「うん。がんばる。堀田さんも、がんばれよ」

堀田は、自分の席に帰っていった。

山本さんは、ふくれている。どうしようか。考えたけど、謝りようがない。

勉強だけに集中した。

夕方辺りまで、ぼくらは、勉強していた。堀田は、いつの間にか、帰っていた。

「そろそろ、帰らない?」

山本さんは、返事をしなかった。

「怒ってる?」

「怒ってないわよ。小学生のことだし」

「うどん、食べにいこう?」

「そうね」

ちょっと、山本さんは、冷たかったけど、ぼくらは、帰ることにした。

図書館の信号を渡ったところに、うどん屋さんはある。向かった。

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