公園

林風(@hayashifu)

第1話 おにぎり

公園に二人やってきた。

同じベンチにすわった。

春の朝だった。

どこか、涼しい。とても、いい季節だ。

鳥たちが鳴いていた。

ぼくたちが、しゃべる代わりに鳥たちが、さえずってくれてるようだった。

ぼくは、そのひとの手に触れた。「あっ」と、その子は、声をもらした。でも、それ以上は、なにも、言わなかった。しらじらしい。最初っから、こうしたかったんだろ。

胸のなかで、ぼくがにやけていた。

なにも、しゃべらなかった。涼しい、そよ風が吹いている。黙って、ぼくたちは、手を握りあっていた。

彼女は、無口だった。いや、友だちとなら、よく、しゃべるほうではないだろうか。ぼくに対しては、なにも言わない子だった。

ぼくも、無口だった。

ぼくは、友だちといても、なにもしゃべらない奴だった。ときどき、冗談は言ったりするが、どちらかというと、雰囲気を楽しむほうだった。

彼女と、ぼくは、前を向いていた。

向こうから、保育所のお兄さんや、お姉さんたちがやってきた。

子どもたちの声で、いっぱいになった。

狭い公園だった。

でも、のどかな公園で、子どもたちが遊ぶには、適していた。

保育所のお兄さんは、「はい、この公園から出ないように遊ぶんだぞ」

と言った。

子ともたちが、ばらばらになりはじめた。

ぼくたちは、手を握りあったまま、黙り込んでいた。

子どもが一人、ちかよってきた。

ぼくたちに話かけた。

「なにしてるのー?」

ぼくたちは、困惑した。

できれば、手を握りあったまま、そのままにしておいてほしかった。

「ねぇ、なにしてるのー?」

子どもが、もう一度、たずねてきた。

「二人でいるの」

彼女が言った。

「なにかして、遊ぼうよ」

その子が話しかけてきた。

保育所のお兄さんが言った。

「こらこらこら、邪魔するんじゃない。どうも、すみません」

「いいえ、おかまいなく」

ぼくが言った。

しばらく、公園は、子どもたちの声で、いっぱいになった。

「ぎゃー!やめてよ」

「あ、おまえがつかまえる番だぞ」

そんな話し声で、いっぱいになった。

ぼくは、彼女の手を離さなかった。

ここで離したら、今日の出来事がすべてなくなってしまう気がした。

保育所のお兄さんが言った。

「そろそろ、帰ろうかー!」

「えー!」

と子どもたちが言った。

子どもたちは、帰っていった。

公園で、また、二人きりになった。

ぼくは、気付いていたのか、気付いてなかったのか、彼女の手を強く握っていた。

「痛いです」

彼女が言った。

「あ、ごめん」

と、言った。

「あっ」

と彼女が言った。

「なに?」

「お弁当作ってきたの」

「食べていいの?」

「うん」

どきどきした。

彼女の手料理を食べられる!

いいんだろうか!

「はい」

彼女がお弁当箱を開けた。

おにぎりがつまっていた。

彼女の握った、おにぎり!

ひとつ、口に入れてみた。

どこか、甘い味がした。お米って、こんなに甘かったっけ。そう思った。

なかに、鮭が入っていた。

「おいしい!」

思わず、そう言った。

「ありがとう!」

と彼女は、言った。

春の陽気な午前だった。ずっと、ここにいたいなぁ。こころから、そう思った公園だった。

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