ヴァン・テルの剣技はどこかおかしい。

黒夜

第1話 出会い


レルドナ王国王都の西方の街、マルドに向かう途中──。ヴァン・テルは飛行船の舵を切りながら敵の接近を感知した。


「マスター、三隻の飛行船が接近中──。おそらく空賊、ただちに殲滅を」


テルが趣味で作ったメイドロボであるメアリーが情報を伝えてくる。年季は秘密にして欲しいとメアリーの要望があるので秘密である。


「メアリー、舵を変わってくれ」


「了解」


テルはメアリーに後のことを任せ甲板に出る。上空にはすでに三隻の飛行船がありロープをつたって賊達が降りてきていた。


(さて、片付けますか)


甲板に複数の賊が降り立ち、それぞれ剣や銃を抜く。すでに戦闘準備万端と言った構えでニヤニヤしている。正確な数は九人。テルはため息を吐きながら降服勧告をする。


「今すぐ降服して俺に従うのなら命だけは助けてやる」


それを聞いて賊達は顔を見合わせ笑い出す。


「あはは! なに言ってんだお前っ!」


「それは俺達のセリフだ!」


「バカじゃねえの? この状況が見えてないのか!?」


テルは見た目が若く背が低い。柔和な顔で、客観的に弱く見える。その上一対九の状況。賊達がテルを笑うことは仕方ない。テルもそう納得し、そして呆れた。これまでも居たのだ。たった一隻だけで飛行する、乗組員の少ないテルの飛行船を狙い、その結果後悔した賊達が。彼らの絶望の顔を思い出すだけでテルは再びため息を吐きそうになる。だが堪えた。テルは背中に背負う剣の柄に手をかける。


「なんだ、やる気なのかガキんちょ!」


「はははは! 現実を知らないガキだな!」


「とっととぶっ殺して好きにさせてもらうとするか!」


賊の内銃を持つ三人が銃を構え、ほぼ同時にテル向かって発砲した。テルは剣の柄を少し引き抜き再び収めた。その結果三つの銃弾はそれぞれ真っ二つになりテルに届く前に甲板に落ちる。


「「「はっ?」」」


それを見て賊達は目を丸くする。状況がわからないと言った顔だ。


「い、今なにをした!?」


一人、立ち直った賊が慌てたように聞いてくる。テルはとりあえず説明してやることにする。


「剣で切った、それだけだ」


それを聞き、言葉の意味がわからないと言った顔をする賊達。


「そんなことができるわけないだろ!」


「そうだ! なにか魔道具でも隠し持ってるんだろ!」


「ただのガキと思っていたが、いいもん持ってるじゃねえか」


テルは再び呆れる。特殊な効果を持つ魔道具なんてテルは持っていない。テルはこれ以上説明する必要はないと感じた。だから再び剣の柄に手をかける。それを見て賊達が警戒し、再び三人の賊が発砲してきた。今度は連続して発砲してき、十発ほどの銃弾がテルに向かって飛来してくる。テルは剣の柄を少し引き、収める。その結果すべての銃弾は真っ二つになり地に落ち、賊達の下半身が氷ついた。


「なんだこれ!?」


「冷てえ!?」


「う、動けねえ」


「やっぱり魔道具を隠し持ってやがったな、はっ! その剣か! その剣が魔道具なんだな!」


動けない賊達に近づきながら剣を引きすぐに収める。その結果三人の持つ銃が真っ二つ割れ、驚いた賊三人は残った銃の残骸を落とした。


「今のは秘技・氷化だ。俺の立派な剣術なんだから、魔道具なんかと一緒にするんじゃねえよ」


「「「嘘つけえ!?」」」


「そんな剣術があるか!?」


「魔道具なんだろ? なんでそこまで魔道具を隠したがる!?」


テルは頭をかきながら賊達の声を無視する。賊達を凍り付かせた氷が徐々に広がり、うるさい賊達を完全に氷つかせた。静かになったのでテルは舵を切るメアリーの下に戻り、飛行船を停空させるように言う。



三つの賊の飛行船を完全に占領した結果、なかなかの成果が出た。まず金銀財宝。かなりため込んでいたようで軽く数十年は遊んで暮らせる額の量があった。次に三隻の飛行船。これはいらないと判断した。ついでに賊達もいらないので、地上に降ろした。それから賊達が捕虜にしていた三人を解放し、しばらくうちの飛行船で面倒を見ることになった。兄弟と思われる似た顔の子供は気を失っていた為、船内にあるベッドに寝かせた。残りの捕虜は助けた後すぐに目を覚まし、お礼を言ってきた。


「助けて下さりありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか」


「気にしないでくれ」


お礼を言ってくる銀髪美少女を無視して大量の金貨を漁るテル。今のテルは賊から奪った大金にしか興味がなかった。漁りながら金銀財宝ばかりで、魔道具的な特殊な道具や神器がないことにがっかりするテル。お金には困っていなかったテルにはお金よりもそっちに興味があった。


「わたしの名前はハルメルナです、あなたの名前を聞かせてくれませんか?」


「テルだ」


「テルさんですね、良い名前ですね」


「そんなことないだろ、テルなんてありふれた名前だし、面白みがない」


「そんなことないですよ! わたしは本当にいい名前だと思います」


「そうか、ありがとう。それよりこの財宝運ぶの手伝ってくれない?」


「はい!」


テルは準備した袋に詰められるだけ財宝を詰めて持つ。ハルメルナにも同じことをさせて移動する。金庫代わりに使ってる部屋に移動し、袋を置く。それを何度か繰り返し、数分で移動が完了した。


「テルさんは飛行船を持ってますけど……空賊なんですか?」


「ああ、空賊だけど……空賊は嫌いか?」


「その……はい、わたしもわたしの家族も空賊には悩まされてきましたから」


確かに世間一般では空賊は敵と認識されているだろう。海賊然り、盗賊然り、空賊もまた国や街の人間から恨まれている。大昔から他人の物を盗み奪いを繰り返してきただけの歴史がある。余ほどのことがあっても、世間の賊に対する認識は変えられないだろう。


「ま、言い訳かもしれないけど、俺は賊以外から物を奪ったことはないから、安心してくれ」


「そうなんですか? それだとどうやって生活してるのか」


「昔、いろいろあってな、貯蓄には自信があるんだ」


「昔、……それを聞いても?」


「いや、面白くないからやめとこ、それよりも疲れたから風呂沸かしてくる」


「あっ、それならわたしがやります、教えていただければ身の回りのお世話はわたしがします」


「そうか? なら頼もうかな」


テルはハルメルナに船内の案内と、テルの一日の過ごし方を教えた。ハルメルナはどこから取り出したのかメモ帳にメモしながら真剣な顔で聞いていた。テルはその真面目さに関心しながら教えていく。教えながら、賊の飛行船のことを思い出した。


「ちょっと甲板に出てくるから」


「ならわたしも行きます。……なにをするんですか?」


「見てればわかる」


甲板に出たテルは隣でハルメルナの視線を感じながら、テルの飛行船であるソラに、ロープでつないである三隻の飛行船を見る。そして剣の柄に手をかけた。また少し抜き収める。すると三隻の飛行船がそれぞれ五等分に分裂し、地に落ちていった。


「今何をしたんですか!?」


ハルメルナが驚く。しかしテルは冷静であった。


「俺の剣技、秘技・風車」


「絶対剣技じゃないですよね!?」


甲板の端に括り付けていたロープも外し、本格的に落ちていく。それを見て地上にいる空賊たちが悲鳴をあげているのが聞えてきた。


「わざわざ壊したんですか?」


驚きを押さえながらテルのしたことに対して不安そうに聞いてくるハルメルナ。


「ああ、追いかけられても困るからな、命を取らなかっただけでもマシだろ」


「……そうですか」


「じゃあ風呂と晩飯頼むな」


「はい!」


テルとハルメルナは船内に戻った。

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ヴァン・テルの剣技はどこかおかしい。 黒夜 @fujiriu

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