第16話 容疑者⑤ 鞍馬 狗巻

 由佳ゆか狗巻いぬまきが自分のことを好きなのを知っていた。


「隠してるつもりかもしれないけど、だからね」


 由佳は口には出さないが、いつも心の中でそう思っていた。


 先日、狗巻が由佳に「大学の志望校を決めたら報告よろしく」と言った時も、「同じ大学に行かない為とか言ってない」と狗巻が呟いたのを由佳は聞き逃していなかった。


「聞こえないふりをしてあげたんだから、感謝してよね」


 その上で、由佳も、狗巻の事はまんざらではなかった。


 客観的にみて、狗巻は「」として「超」が付く程の優良物件で、そのことを由佳もちゃんと理解していた。

 狗巻は顔つきは優しく、精悍さもあり、いわゆる「イケメン」だった。

 勉強も成績上位で、スポーツも市原 顕乗いちはら けんじょうの跡を継いでバレー部でキャプテンを務めていた。

 口数は少ないが、そうした寡黙さがより異性を惹きつけ、狗巻は女子に人気だった。


「よく体育館裏に呼び出されて、女子に告白されてたよね……。

 全部、断ってたけど」


 そんな狗巻と幼馴染で、しかも好意を寄せられているなんて、他人からしたらとても羨ましがられるシチュエーションだと由佳は理解していた。


 そして、そうした打算的な考えを差し引いても、由佳は一緒にいるなら狗巻が良いと思っていた。


 すでに出会ってからの期間が長いので、恋愛初期のようなトキメキ感は覚え難くなってしまったが、自分が狗巻意外の人と付き合うことは想像できないし、何より狗巻以外の人と、わざわざそうする必要などないと由佳は考えていた。


 なので自分はちゃんと狗巻が好きなんだと確信していた。


 しかし、このことは狗巻に伝えていなかった。


 わざわざ伝えなくても大丈夫だろうという油断と怠慢、それにどうしても「今更な感じ」があって言わずじまいになっていたのだ。


 しかし「じぶんのおもいがおなじくくらすのきふねゆかに」と願ったのが狗巻だったなら、伝えてあげた方が良いのかな?と由佳は思った。


 狗巻は───本人はバレないようにしているつもりかもしれないが───わかりやすく由佳に好意を示していた。

 しかし、狗巻も面と向かって由佳に告白をしていなかった。


 その事に由佳は「いつになったらちゃんと言うの?」など、不平不満はなかったが、ふと自分が「残念な勘違い女子」なのではないかと思うこともなかったわけではない。


 しかし、それでも狗巻の好意の示し方は、とてもあからさまでわかりやすく、本当の本当にだったので、由佳は「狗巻も私と一緒にいる期間が長いので、今更なんて言って告白したらいいかわからなくなっているんだとうな」と納得していた。


「それで言うと……」


 由佳はふと思った。


「……私は狗巻に、どういう風に言われたいんだろう?」


 よくドラマや漫画では夜景の綺麗なレストランで男性が女性に交際を申し込むようなシーンがあるが、特にそういうことに憧れがあったりはしなかった。


 同年代の女子は「壁ドン」などに憧れがあるようで、どのクラスの誰が、なんて男子に壁ドンされたといった話で盛り上がっていたが、由佳は興味がなかった。


「狗巻は私にどういうふうに言いたいのかな?」


 そう思って由佳は狗巻を見上げた。


「…あれ? 狗巻ってこんなに背が高かったっけ? また背が伸びた? 男子は高校から急に伸びるっていうしね。

 スポーツもしてるし、狗巻って身体しっかりしてるよね。

 昔はヒョロっとしてたのに、腕も筋肉でパンパンになっちゃって、さすがバレー部よね。

 そういえば狗巻の手って……こんなに大きかったっけ?」


 その時、由佳ははっとした。


 ───そうか……狗巻に告白されるってことは、私は狗巻とそういうことに……


 由佳は急に自分の顔が紅潮してしまうのを覚えた。

 その事実を如実に意識してしまい、急に気恥ずかしくなったのだ。


「ええ~っ?! どうしたの私?! 今まで意識したことなかったのに……!」


 由佳は悟られないようにうつむき加減になると、髪を自分の顔に垂らして表情を隠した。


「…どうした?」


 異変に気付いた狗巻が問いかけてきた。


「ええっ!? (なんでこういう時だけ察しがいいのよっ…!!)

 あ、あの…なんでもないです…。気にしないでください……」


 狗巻は眉間にしわを寄せて怪訝な顔をした。


「…なに? なんで敬語?」


 狗巻は由佳の顔を覗き込んだ。


「あ、あのっ…困りますっ。顔を覗き込まないで下さいっ」


 狗巻はますます訝しんだ。


「だからなんで敬語? あと由佳、おまえ顔が赤いぞ」


「…っ!! いえ、赤くないですっ。気のせいですっ」


「いや、真っ赤だって。どうした? 風邪か?」


「ちっ、違いますっ…!

 違いますのでほっといて下さい~っ!!」


 由佳は耐えられなくなり走り出してしまった。

 取り残された狗巻は呆然とした。




----------

今回のお話はどうでしたでしょうか?

(,,•﹏•,,)ドキドキ


男子は中学から高校の間にすごく背が伸びますよね~。

小学生の時は同じ目線か、なんなら女子の方が目線が上でも、高校になると、だいたいの男子が高くなりますもんね。


それと昨今は、告白や喧嘩の為に、体育館裏に呼び出されるなんてことはもうないでしょうね(笑

でも狗巻の所属しているバレー部が、体育館で部活をしているので、その際に呼び出されるのを「体育館裏」としてみました。

( ˘ω˘ )

体育館裏に呼び出されたり、また呼び出したりしたかったな~(  ̄- ̄)

----------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る