第8話 夏祭りの準備

 苗蘇高校びょうそこうこうは創立以来、夏祭りを毎年開催していた。

 この夏祭りは、元々は苗蘇神社びょうそじんじゃが境内で開催していたが、神社が高校になったので、高校が開催を引き継いだのだ。

 夏祭りの準備はとても大変だが、教師や生徒たちは一丸となって準備に取り組んでいた。

 皆、この夏祭りが大好きだったのだ。

 由佳ゆかも夏祭りの準備に参加していて、日暮れ近くまで学校で作業をしていた。


「ちょっと作業に集中しすぎちゃった。早く神様にご挨拶して帰らないと」


 すっかり帰りが遅くなってしまった由佳だが、それでも苗蘇神社に赴いて帰りの挨拶をしようとしていた。

 下校時にも神様に挨拶をするのが由佳の日課だった。


 時間が遅くなったこともあって、辺りは薄暗くなっていたが、苗蘇神社に続く小径こみちは両脇に林立する灯篭に明かりが灯っていて、幻想的な明るさに包まれていた。


 そうした小径に入ってすぐに由佳は異変に気付いた。


「え? なに、あれ…?」


 小径の先には鳥居があり、その奥に苗蘇神社の御社おやしろがあるのだが、鳥居が何かで塞がれていたのだ。


「…これって…、動物の毛皮…?」


 由佳が恐る恐る近づいてみると、それは毛皮のようだった。

 それもただの毛皮ではなく、柔らかで、ふわふわしていて、とても気持ちのよさそうな毛皮だった。

 由佳はそっと手を伸ばして毛皮に触れてみた。


「……!」


 毛皮は思った通り柔らかで、暖かく、まるで子猫を撫でているような手触りで気持ちが良かった。

 その為、由佳は夢中になって毛皮を撫でまわしてしまった。

 しかし、さんざん撫でまわした後、ふと我に返った。


「これ、動物だよね……」


 毛皮はとても大きく、何か大きな動物が苗蘇神社にみっちりと収まっているような状態だった。

 こんなに大きな動物とはいったいなんだろう?と、由佳は急に不安を覚えた。


「……まさか、熊? ……じゃないよね……」


 そう一抹の不安を覚えた矢先、由佳は不意に声をかけられた。


『キミはいつもお参りに来てくれている娘さんだニャ?』


 由佳はびっくりして飛び退いた。

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