開闢(かいびゃく)の思い(2)

にも拘らずその後の20年に及ぶこの為体(ていたらく)!いくらそこに常人には有り得ない、20年間に及ぶヤクザストーカーどもによる苛みがあったとしても、おい、お前…田中茂平さんよ。いくら何でもひど過ぎはしないか?天使の命(めい)を蔑(ないがし)ろにしてはいまいか?いいか、おい、茂平。もう終わっちまうんだぜ、人生そのものがさ。このまま負目負目と負け犬のままで終わるつもりなのかい?

「魂(A子)・心(B子)・現実(私自身、私の人生)の光転を為せ」と云われたのだったな?あの時、天使から……などと、チンピラストーカーどもの苛みに負けて、荒れ地のようになってしまった自分の心を、恰も開闢し行くが如き思いに至る私だった。

 思いここに至れば、今回のこの一連の出来事が決して偶然ではなかったという気がする。思いも寄らなかった山倉との再会、栄子さんやビアクさん、明美ちゃんとの出会い…実際のこと、その明美ちゃんがどれほど悲惨な境遇に置かれていたか、私はこのあと篤(とく)と知ることになるのだ。それと比べればこの私など…まさに頬を引っ叩(ひっぱた)かれる思いがしたものだ。とにかく私にはもう〝やる〟しか、現実に行いを為すしか他に道はないようだ…。

 渋谷少女A子のような会釈を残して、私を清拭し終わった看護婦さんが離れて行く。魔王アスラ―から絞殺されそうになった悪夢から私を揺すり起こして醒ましてくれた看護婦さん。これをA子に見立て「ありがとうございます。A子さん」と心中でそっと呟いた。


 昼過ぎになって山倉が訪ねて来てくれた。果物やら菓子やらを土産に持って来てくれている。ここの場所は携帯で事前に聞いてくれていたのだ。さすがタクシーの運転手で✕✕病院と告げただけで一発で分かったようだ。


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