A子の絵が私を責める

思えばあのA子との奇跡の邂逅以来立ち直り、生き直そうと私はしたのだったが、言い分けにはしたくはないがこの今も隣にいるだろうアベック始め、ストーカーヤクザどもの執拗な追跡のお陰で、まったくそれが出来ないでいたのだ。そうこうするうちに10年になんなんとする月日は夢のように流れ、今は古希真近の身となり、心身ともにやつれ果てた身となっていた。昨今のコロナもこれあり、八方塞がりとなっている。しかしこれではA子との邂逅往時の、あの車上暮らし時分と寸分違わぬではないか。まったく情けない!これは全体以前の夢中に現れたあの魔王アスラーの復讐、呪いだろうか…?などと思ってみたりもするが、そんな言い分けをも含めて、切迫した件の、夢中の少女への放ったらかしを眼前のA子の絵が責めるようだ。

「そうだ、あの少女…」と今さらのように思いを致し悪夢の切迫感が胸中に戻る。するとその胸の底から湧き上がるような言葉と情動があった。「魂と心と現実…」と偉大な方の声が甦る。かつての夢中に現れたアークエンジェル、そう、あの大天使の御声だった。「田中さん、あなたはその〝現実〟です。このままでいいのですか?魂(A子)も心(B子)もうち忘れて、情けない身のままでいるつもりですか?あの時と同じことをあなたに告げましょう。幼女を助けてあげてください。まだ間に合います。さあ、立って!」と言明された…ような気がした。言葉とも情動ともつかぬもの。胸の奥から突き上げるもの…。私は吸わぬままにいつの間にかフィルター近くまで短くなっていたタバコの火を灰皿に揉み消すと、スクっと立ち上がっていた。『幼女が、A子が呼んでいる…』と胸中に一言を云って、そのA子に引かれるように私は部屋の外へと出て行った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る