万年寝不足男

考えてみればA子とB子はチンピラどもに連れ去られて河原で殺されたのだったな…などと独白する内にしかし私はいつの間にかうたた寝をしたようだ。隣の部屋に入り込んで来た件のストーカーアベックのお陰で、私の普段の眠りは半寝半起状態のそれに戻っていた。このクズどもは1時間置きくらいに壁を棒で叩いては私を叩き起こしていた。その為に万年寝不足状態となり横になれば殆ど否応なしに眠り込んでしまうのである。気を付けてはいるが寝込む前にタバコを吹かしたりしていると火がついたままでそれを畳みの上に落としてしまい、為に畳のあちらこちらに焦げ跡を残してしまう始末だった。そしてそれは今日のように帰宅前に隅田公園などで幾許かの眠りを貪ったとしても同じだった。何せ都合20年間以上熟睡は得られず、畢竟この万年寝不足状態は心身に渡って大いなる支障を私に来していたのである。

 さてそのような苦しい眠りのうちに見た夢の中で、私は隅田川の畔(ほとり)に佇んでいた。畔の場所は今住むこのアパートのすぐ近く辺りと思われる。そう判る分けは私が普段からその辺りに行って少しでも眠りを貪ろうとしていたからだが、無論それは隣のド畜生アベックどもの苛みを少しでも軽減しようとしてのことである。ま、それはともかく、夢の中の隅田川の川面には普段滅多に出ない靄(もや)が一面にかかっていて、堤の景色もぼんやりとしていた。しかしその中から大人の男と幼女の声と思しき、何かを言い争うような、緊迫した会話が聞こえて来た。

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