あの女の子が気にかかる
差し込む鍵穴も開けるドアもつっかえ軋ませながら部屋に入る。このコロナ下ゆえに念入りに手・顔を洗い、うがいをして、こちらもいつものようにインスタントコーヒーを淹れる。六畳一間の畳の上に寝転んでコーヒーを飲みタバコを吹かすがどうにも落ち着かない。あの女の子の顔が目にちらつくのだ。まさかとは思う。まさかあの連れの男が誘拐犯で、あのまま隅田川の畔にまで連れて行って、よからぬことを女の子にしはすまいな…などと危惧されて仕方がない。パソコンでツイッターなどを見ると今日日お隣の中国を始め世界中で子供の誘拐事件が多発していると云うではないか。もっともなぜわざわざ中国から日本にまで来て誘拐せねばならないのか、経費もかかるし第一入出国審査の目が厳しかろう。世界のセレブたちの一部猟奇趣味による誘拐もあると聞くがこちらも同じ理由から考えられない。それに何よりかによりこの日本ほど子供の誘拐に対して厳しい目を持つ国はないのだ。世間の弾劾が至って厳しくごく偶に身代金目当ての誘拐があってもほぼ100%検挙され犯人が成功した試しがない。唯一問題なのが幼児性愛異常者による犯罪でこちらの方は近年増加傾向にあると聞く。しかしそれにしたって女の子の手を引いていた40年配の男の身なりは隆としたものだったし性格異常者などという雰囲気はなかったのだが…ただそれを云うよりはもっと気にかかることが実はあって、あの折り通りがかりに私を一睨みしていったあの男の目が何と云うか、実に精悍できついものだったのだ。それを例えるなら、そう、魔王?とでもいうような…。ま、もっともそれにしても何にしても考え過ぎだろう。
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