蟻の街のマリア公園

この〝超寝不足状態〟ということに付いては特別にレクチャーせねばならないことがゴマンとあるのだが今は止めておく。とてもとても自己責任で十把一絡げにされてしまっては、絶対に肯んじ得ない特別な事情が私にはあったのだ。敢て一言で云えばエルム街の悪魔のごときチンピラヤクザどもの、理不尽極まるストーカー行為を、長、年に渡って私は被っていた。この被害を何度警察に訴えても取り合いもしない。よーし、それならばその警察をも含めた公的機関への、意趣返しのようなつもりでもって、私は生活保護を申請したつもりででもあったのである。なんの引け目もやましさもありはしない…などと強引に自分に云い聞かせてはみたものの、ただ善意の第三者は必ずしもそうは思わないだろう…などとも思う。しかしとにかく…そんなことを云ってみても始まらない。申請は却下されたのだし、ぼちぼちとでも家に帰らねばならない。私は〝蟻の街のマリア公園〟を出でて浅草駅へと歩き出した。途上行き交う勤め帰りのサラリーや若者たちが「プータロー」と何人でも罵って行ってくれる。勝手にしやがれだ。

 吾妻橋を渡り右下に浅草水上バスの船着き場を見る辺りで自然に右手が胸のポケットに伸びた。いつもの癖で電車に乗る前にタバコを吸おうとしたのだ。今日日全面禁煙の都内のこと、どこら辺りで隠れて吸えばいいかなどと水上バスの敷地辺りに身を向けた為、ちょうど車道側に身を向けた形となり、胸に上げた手を勘違いされてしまったようだ。するすると一台のタクシーが目の前に来て停まる。「ちっ、よせよ」とばかり舌打ちして慌てて右手を左右に振る。

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