記憶の欠片を探して~運命の絵本と少女の冒険~

夜野 幻

第1話

私の名前はフェリシア。今年で17歳になる、ごく普通の女子高生だ。

ごく普通、なんて言葉では片付けられない、とても大きな悩みを一つ抱えてはいるけれど。


「あれ、私……今日は何の準備をしていたんだっけ?」


ぼんやりとした視線で、ベッドの上に広げた荷物を見つめる。記憶が曖昧で、思い出せない。いつものことだ。


私には、10年前のある事故によって、大切な両親を亡くしてしまったという悲しい過去がある。その事故で、私自身も重症を負い、命をとりとめたものの……結果として一部の記憶を失ってしまったのだ。


幼い頃の思い出。両親との楽しかった日々。大切な人たちとの記憶。

それらは今、重い扉に阻まれたように、私の記憶の彼方に閉ざされている。


「大丈夫よ、フェリシア。少しずつ、でも必ず取り戻せるわ」


そう自分に言い聞かせることが、私の日課になっていた。心の奥底で強く願い続ける。いつか必ず、失われた記憶のピースを取り戻すのだと。


ため息をついて、ベッドから体を起こす。窓の外には、優しい春の陽射しが差し込んでいる。

穏やかな風が、カーテンをそよがせる。小鳥のさえずりが、遠くから微かに聞こえてくる。


「さて…今日は、あの本を探しに行くんだったわね」


私はふと、数日前に立ち寄った古書店のことを思い出していた。


あの日、いつものように下校途中に見知らぬ書店の前で足を止めた私は、なぜだか強く惹きつけられるように、その扉を潜ったのだ。

そこは古びた雑多な本に溢れた、薄暗く埃っぽい空間だったけれど、不思議と居心地が良かった。


私は本棚の間を抜け、次第に店の奥へと引き込まれていく。

ふいに、奥の書棚の向こうから、かすかに聞こえる不思議な音に耳を澄ませた。

まるで、子守唄のような、優しくも切ない調べ……。


その音に導かれるように近づいていった先にあったのは、一冊の古ぼけた絵本だった。

分厚い革表紙の、見る者を引き付ける美しい装丁。

『失われた記憶を探す少女の物語』というタイトルが、金色に輝いている。


「これは……まるで、私のことを描いたような……」


その絵本に手を伸ばした瞬間、不思議な光に包まれ、私の意識は現実から遠のいていった。

気がつくと、見知らぬ不思議な空間。

そこで私を出迎えてくれたのは、絵本から抜け出てきたような一人の美しい少女。


「アナタは、『失われた記憶』を探す旅をする勇者よ。その絵本が、アナタを導く鍵になるわ」


少女はそう告げると、愛らしい一匹の生き物を差し出した。


「この子はポック。アナタの旅に同行し、記憶を取り戻すためのサポートをしてくれる』


モフモフの柔らかな毛並み、クリっとした大きな瞳。

小さな手に導かれ、私は戸惑いながらも、この不思議な旅に出ることを決意したのだった。

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