第2話
高校に入学してから一年が経ち、今の俺は二年生。
それはつまり幼馴染の氷室鈴奈もまた二年生になっている事でもあり、そしてクラス替えが発生したのにも拘らず、相変わらず彼女と俺は一緒のクラスであった。
今の今まで彼女と俺は同じ学校に通い進学して来た訳だったが、その間にも何度か違う教室になる可能性は何度もあった、しかしそうなる事はなかった。
回数的には片手でぎりぎり数えられる程度だけど、でもここまでくるとなんか運命を感じる。
……感じたからなんだって話しでもあるが、それはさておき。
氷室鈴奈についてちょっと話そう。
氷室鈴奈、誕生日は7月29日で血液型はAB型。
身長は確か今年で156センチになったとかそんな話を本人から聞いたような気がすると、そして体重に関しては聞いてない。
黒い長髪は濡れ髪の如く、あのように美しい髪を長期間保ち続けるのには多分努力だけではなく本人の体質も関係しているような気がする。
瞳は垂れ目気味、だが無表情なのでどことなく鋭さを感じる時があった。
口調は常に静かであり、丁寧口調。
ただそれについては本人の方から「そのように統一した方が一々人によって変える必要がなくなるから」と言っていたので、多分面倒臭いからそのようにしているのかもしれない。
そんな、氷室鈴奈ではあったが、最近というか本当にさっきまでクールビューティーなガールだと思っていた。
なんだっていつの間にかそんな方向に成長したんだと思っていたが、しかし今は別の意味で頭を抱えている。
何故か。
【うふ、ははは――潤君の唇、ぷるぷるで美味しそ♡ ちゅってしたらどんな味がするんだろうなぁ】
俺が渾身の意思で直立不動のまま、恐る恐る彼女に話しかけてみる。
「なあ、鈴奈。そう言えばだけどさ」
「……潤君にしては随分と強引で無理のある話の振り方ですね。何か、ありましたか? 相談があるのならば乗りけど」
【どうしたのかな? 何か困りごとがあるのならば私も力になりたい。潤君の事、大好きだから。大好きな人だからなんだってしてあげたい】
「……」
「で、何かあったのですか? 私もそこまで暇ではないし、だから出来る事も限られていますけど、でも。友達なんだし言ってみてください、遠慮はなしです」
【幼馴染だよ、私。潤君の事ならばなんだってする、絶対にする。どんな事だって叶えたい】
なんか凄く凄かった。
具体的に言うと、彼女の内心を覗いていると胸やけにも似たものを感じる。
恐らく、彼女から与えられる強烈な激情を俺は飲み干し切れていないのだろう。
多分それは彼女がまさかここまで凄まじい感情を俺に対して向けているとは思っていなかったから、その――ギャップというのだろうか?
なんにしても彼女がこんなにも強い矢印を俺に向けているとは思ってもみなかったので、ありていに言ってしまえば反応に困ってしまった。
しかも、なんか心の内の声色が普段の冷静沈着なクールボイスと違ってやたら可愛らしい。
萌え声ではない、ただ凄く頭の中にすっと入り込んでくる綺麗な声。
ただその内容が油とニンニクをマシマシにしたラーメンの如くだったし、だから多分そのギャップにもやられているのだと思う。
「い、いや。その……いやその実は俺、今日やるべき事が山積みになってて」
「はあ。それでなんで外出なんてしているんですか? それが外で行うべき事ならば納得ですけど、多分学校から出された課題とかの話、ですよね」
「う、うん」
「ならばさっさと家に戻ってそれを解決していくべきでしょう。私も――いえ、そういうのは粛々と解体していくのが一番の近道なんですから」
【うーんうん。手伝って上げたいなーすべて私がしてあげたいな。でもでも駄目っ。それじゃあ潤君の為にならないし、ここはぐっと我慢して潤君の背中を押して上げないと。ごめんね?】
「とはいえ真面目なのはその通りなんだよなぁ……」
「はい?」
「いや、何でもない」
内心で可愛らしい声で俺の事を慮りつつもやっぱり真面目なところを見せる彼女を見て、俺は確信する。
彼女はどうやら俺の事を大切に思ってくれているみたいだ。
それはどうしてなのかは今のところ分からないけど、だけど間違いなくそれは常人が抱えられるモノ以上のものであり、このような表現をするのは正しいかどうかは分からないけど――そう。
彼女はどうやら、ヤンデレの気質があるみたいだ。
デレているかは分からないけど、だけど彼女のその重たい感情に関しては思わず口を噤んでしまうほどに強烈で、だけど不思議とギトギトはしていない。
あくまで、幼馴染の友達として俺の事を大切に思っている。
その延長線にあるのは間違いなく、だからその点に関してはほっとしていた。
これでもし「他人の事なんか知らねーぜ、私は私の道を行く!」系のメンヘラメンタルが現れていたら本気で頭を抱えていたと思う。
だけど、嗚呼。
【私は、潤君が大好き。大好きだから、潤君の為になる事をしてあげないと】
……うん、やっぱり内心だとはいえ、いや、心の中だからこそ心の底から俺に対しての好意を吐き出されるのは、本気でドキドキしてしまう。
頭を抱えなくなってしまうくらいには。
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