第三部 此岸と彼岸の交わる日 破

【1】急募!市役所外部委託の募集のお知らせ

第1話 胸に穴が空いているようです

 胸にぽっかりと穴が空いたようだ。


 タバコの煙を青空に細く吐き出しながら、そんな陳腐な感傷を結城フタバは抱いていた。


 己のこれまでの人生は、波乱万丈かつどこにでもあるありふれたものだ。


 45年前、人と人ならざるものの間に生まれたフタバは、人のフリをしてひっそりと生きてきた。


 だが、30年前の大穴崩落を経て、人は、人ならざるものを『厄獣』という区分に貶めた。


 その結果、ひっそりと暮らしてきた自分はささやかな日常から引きずり出され、この魑魅魍魎はびこるトコヨ市へと送られてきた。


 当時のトコヨ市には、私のような混じり者が大勢いた。


 特に幼い者は、ウブメドリが保護して育てることになったが、私のように辛うじて一人で生きていける年長者は、言い方は悪いが放置された。


 もっとも、当時は行政も完全に麻痺し、街は四六時中百鬼夜行が行われているような無秩序な環境だったので、これは誰が悪いというわけでもない。


 むしろそんな状況を経て、たった数年で人と厄獣が共存する危うい秩序を作り上げただけでも、御の字というものだろう。


 そういう事情があって、私は一時期、ストリートチルドレンとして生きていた。


 夜鳴ケイキという少年と出会ったのも、その頃だ。


『お前、女なのにすげーな! 俺、ケイキ! お前は?』


『……結城フタバ』


 同年代の異性。正反対の気質。時にぶつかりあい、時に協力する。いわゆる――腐れ縁というやつだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る