第10話

「……よし、それじゃあそろそろ行こうか」



 盛岡城跡公園の探索から十数分が経った頃、櫻山神社の前で久慈さんは言った。結構広い公園であり、事前にみんなが話していた見所もスゴかったけれど、俺が演じたいVTuberのモチーフはなんとなくここじゃないような気がしていたので久慈さんの発言は賛成だった。



「そうだな。ここはここで良いところだけど、なんか違うかなって気がした」

「魂になる遠野君が言うならそうですね。因みに、ここをモチーフにするならやはり侍のような見た目をした男性かなと思いました」

「城だとやっぱり侍とか殿様っていうイメージになるよな。俺もそんな感じだったし」

「私もでした。それで、次は盛岡八幡宮でしたよね?」

「うん、そうだよ。それじゃあ早速しゅっぱーつ!」



 俺達は頷いてから歩き始めた。



「これから行く盛岡八幡宮はね、とっても大きな神社で初詣の時にはいっぱいの人が集まる場所なんだ」

「入り口には大きな朱色の鳥居があり、その先にある十二支が刻印された参道を歩いて数段ある石段を二つほど上った先に本殿があり、その他にも十二支をそれぞれ祭った小さな神社もあるんです」

「十二支が刻印……?」



 その光景が想像出来ずにいると、平泉が口を開いた。



「もちろんその絵が刻まれてるわけじゃなくて、十二支の名前が参道の色々なところに散らばってるんだ」

「それを見つけたらご利益があるというわけじゃないですけど、全部見つけるのは結構難しいので達成感はありますし、ネットに載せてる人もいるみたいです。もっとも、冬になると雪で隠れてしまうので見えなくはなってしまうんですが……」

「けど、それを探すのも面白そうではあるな。みんなは探した事があるのか?」

「私と萌絵ちゃんはやった事あるし、ぜーんぶ見つけた事もあるよ」

「俺も前に全部見つけた事はあるな」

「私もあります」

「そっか。それじゃあ俺も探してみようかな」



 そんな事を話しながら歩く事十数分、八百屋を始めとした店が立ち並ぶ通りを歩いていくと、俺達の目の前には大きな朱色の鳥居が現れた。



「これが盛岡八幡宮の鳥居……たしかにこれは大きいな」

「いつ見てもほんとに目立つ鳥居だよね。私達も初めて見た時は驚いちゃった」

「そうでしたね。さて、ここも神社の一つではありますし、しっかりと鳥居の前で一礼をし、参道も端っこを歩くようにしましょう。真ん中は神様の通り道ですから」

「そういえばそうだったな。それじゃあその礼儀に倣って入らせてもらうとするか」



 俺達は鳥居の前で一礼をしてから中へと入った。その瞬間、神社仏閣特有の厳かな雰囲気が伝わり、思わず背筋を正してしまった。



「なんか神社の境内とかに入ると緊張するよな」

「神社は言うなれば神様のお家ですからね。そういう気にもなりますよ。もっとも、夏耶は昔からそういう気持ちになった事はないようですが」

「何故かそうなんだよねぇ。あ、遠野君も十二支探してみるって言ってたけど、ヒントはほしい?」

「いや、無しが良いな。けどその前に、この中を色々見て回りたい。俺達の目的は観光じゃなくVTuberのモチーフ探しだからな」

「たしかにね。それじゃあこの中を色々みていこーう!」



 それに対して頷いた後、俺達は歩き始める。盛岡八幡宮の中は思っていたよりも広かった上に色々な物があり、初めは緊張していた俺も少しずつ緊張も解れていき、親近感のような物すら感じ始めていた。



「なんかここの空気感が好きだな。厳かな感じではあるんだけど、不思議と居心地が良いというか」

「それを聞いて神様達も喜んでるんじゃないかな。それで、何か良いモチーフは見つかった?」

「いや、まだだ。せっかくこういう気持ちになれたわけだし、ここで何かを見つけたいんだけど……」

「そうですね。それに、移動時間も含めるとここにいられる時間もそう多くはありません。その間に何かを見つけないと……」

「そうは言っても中々見つからないな……」

「そうですね……一体どうしたら……」



 少しずつ焦りを感じながら俺達は境内を歩き続けた。そうして日も傾き始めてきたその時、俺の頭の中にある考えが浮かんだ。



「……そうだ。それが良いかもしれない」

「えっ、何か浮かんだの?」

「ああ。ここをモチーフにすれば良いんだよ」

「ここって……」

「もしかしてここ自体をって事か?」



 平泉の言葉に俺は頷く。



「ああ、そうだ。この盛岡八幡宮自体を擬人化したようなVTuberにすれば良いんだよ」

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