04 カヴェナンター

 ウィンスビーで勝利したものの、チャールズ一世を擁する騎士党キャヴァリアーズはイングランド北部を抑えており、依然、国王サイドの方が有利に戦線は展開していた。

 さらには、イングランド西部を制圧しつつあるプリンス・ルパートの存在もあり、議会派ラウンド・ヘッズとしては、事態を打開する必要を感じていた。


「ではイングランド北部よりさらに北、スコットランドと結んではどうか」


 議会派ラウンド・ヘッズのジョン・ピムという政治家にして財政家が、そのことに目をつけた。

 ピムはその優れた財政手腕から、国王へのたび重なる抗議行動にもかかわらず、国王領の収入役を罷免されなかったほどの辣腕らつわんで、清教徒ピューリタン革命の当時、この男が議会派ラウンド・ヘッズの財務を一手に担っていた。

 その凄まじい財政手腕は、騎士党キャヴァリアーズの信奉するカトリックの脅威をに、その騎士党キャヴァリアーズの財産没収と、さらに戦費確保と称して消費税をはじめとする税制を導入を立法化してしまうほどである。


騎士党キャヴァリアーズがアイルランドと手を組み、スコットランドを攻撃し、支配するという話がある」


 ピムお得意の、脅威をちらつかせるやり方に、議会派ラウンド・ヘッズの面々は逆らう術を持たなかった。

 同時にそれは、スコットランドに対しても脅威をちらつかせていた。

 当時――スコットランドは国民盟約ナショナル・カヴェナントという組織に支配されていた。その組織は、スコットランド王を兼任していたチャールズ一世が、スコットランドの教会を、イングランド国教会の支配下に置こうとしたため、それに抵抗するために結成された組織である。

 この組織に属する人たちを、称して盟約派カヴェナンターといい、彼らがイングランドの侵略を危惧し、議会派ラウンド・ヘッズとの同盟を決めた。


「イングランド議会派ラウンド・ヘッズとスコットランド盟約派カヴェナンターは、『厳粛な同盟と契約』(実際にこういう名前の同盟となった)を結ぶ」


 こうしてピムは一六四三年九月二十五日、議会派ラウンド・ヘッズ最大の外交戦略である「厳粛な同盟と契約」を成し遂げた。しかし彼はまるでそれを見届けたことを満足したかのように、三ヶ月後の十二月八日に逝った。

 ピムは癌に冒されていて、その死期を悟った上での行動だったのかもしれない。



「『厳粛な同盟と契約』に基づき、われらスコットランド盟約派カヴェナンターは、イングランドに攻め入る!」


 明けて一六四四年一月、スコットランドより、リーヴェン伯アレクサンダー・レズリーおよび甥のデイヴィッド・レズリーがイングランド北部へと兵を進めた。


「スコットランドがやって来ただと!?」


 ニューカッスル候(伯爵から侯爵に叙爵された)ウィリアム・キャヴェンディッシュは、北からのスコットランド盟約派カヴェナンター、東からの議会派ラウンド・ヘッズ東部連合イースタン・アソシエーションの二正面と戦う不利を悟り、ヨークへと入り、そこで籠城した。

 当然ながら盟約派カヴェナンター東部連合イースタン・アソシエーションは、ヨークを包囲した。

 東部連合イースタン・アソシエーションの軍を率いて来た、オリヴァー・クロムウェルは、このような有利な状況ではあるが、油断せず、情報収集を怠らなかった。

 結果――


「リーヴェン伯、憂慮すべき事態です」


「一体なんだと言うのかね」


 ヨーク郊外、盟約派カヴェナンターの陣営を訪れたクロムウェルの表情は沈痛だった。

 そのことに、アレクサンダーとデイヴィッドの二人のレズリーは、事態の暗転を悟った。

 ちなみにこの叔父と甥は、スウェーデン王グスタフ・アドルフに従って三十年戦争を戦い、「傭兵王」ヴァレンシュタインに一泡吹かせたこともある用兵巧者いくさじょうずである。

 重苦しい沈黙の中、デイヴィッドが口を開いた。


「……もしかして、狂奔の騎士マッド・キャヴァリアーか?」


「さよう」

 

 クロムウェルは目をつむった。

 ヨークの危機を重く見たチャールズ一世は、虎の子である狂奔の騎士マッド・キャヴァリアー、プリンス・ルパートとその軍を派遣することを決定した。

 ルパートの打倒を期するクロムウェルであるが、それにとらわれることはなかった。

 それゆえにこそ、盟約派カヴェナンターの陣中に、わざわざやって来た。

 アレクサンダーはそのクロムウェルの胸中を悟った。


「……撤退だな」


 アレクサンダーがヴァレンシュタインに一泡吹かせた戦い――シュトラールズント攻囲戦は、シュトラールズントを包囲するヴァレンシュタインに対し、アレクサンダーが突撃をしかけ、ヴァレンシュタインを退しりぞけた戦いである。

 クロムウェルはそれを知っていて、アレクサンダーに会いに来たのだ。

 アレクサンダーはそのクロムウェルの慧眼と配慮を悟り、敢えて哄笑した。


「さすがに、わし自身がやったことを他人にやられて、気持ちのよいものではないわ」


 こうしてプリンス・ルパートがヨークに到着したとほぼ同時に、議会派ラウンド・ヘッズは撤退した。

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