03 アイアンサイド

 その一方で、オリヴァー・クロムウェルは何をしていたかというと。


詩篇サームを唱えよ!」


 故郷のハンティンドシャーで兵を募り、神への信仰の下、結束を促していた。


「信仰による規律。規律こそ完全なる行動を生む」


 彼独自の戦争哲学により、その連隊はまさに信仰による規律を守らされ、飲酒や乱暴は禁じられていた。

 ただしクロムウェルは吝嗇けちではなく、私財をなげうってこの連隊を募り給料を払っていたため、兵たちは文句のつけようがなかった。

 そして決して硬直した考えの持ち主ではなく、「信仰さえあればいい」と、加わりたい者は受け入れ、最終的には「公共に奉仕するつもりであれば、それで充分」と言い切っている。


狂奔の騎士マッド・キャヴァリアーがイングランド西部を席巻? なら、われらは東部だ」


 ある程度の訓練を積み、実戦の経験の必要性を感じていたクロムウェルは、自身の連隊を率いて、清教徒ピューリタン革命の戦い──第一次イングランド内戦に再び身を投じる。

 その時、クロムウェルは連隊の隊員たちから、ひとつの質問を受けた。


「旦那、なあ、クロムウェルの旦那」


「何だ」


「おれたちのこの隊の名は、何て言うんですかい?」


「そうだな……」


 謹直な彼らしくなく、その質問にはなぜか答えられず、質問した者も「ま、いいでさァ」と言ったので、この話はやめになった。

 だがこの連隊は、やがてふさわしい名で呼ばれるようになる。


 ──鉄騎隊アイアンサイド、と。



 最初、クロムウェルが募った時点では六十人だったその連隊は、今では千を数えるほどになり、ノーフォーク、ケンブリッジシャーなどイングランド東部の五州が一六四二年に結盟した東部連合イースタン・アソシエーションに参陣した。

 この時点で議会派ラウンド・ヘッズはロンドンをやくしているが、チャールズ一世ら騎士党キャヴァリアーズはオックスフォードに盤踞ばんきょしていた。


東部連合イースタン・アソシエーションを守り抜く。さすれば、議会派ラウンド・ヘッズに加わる州が増えるであろう」


 実際に、クロムウェルが騎士党キャヴァリアーズの蜂起から東部連合イースタン・アソシエーションを守り抜いた結果、連合結成の翌年──一六四三年の五月に、ハンティンドンシャーとリンカーンシャーの二州を加え、東部連合イースタン・アソシエーション七州の連合となった。

 そしてそのリンカーンシャーで――一六四三年十月十一日、ウィンスビーの戦いで――クロムウェルは騎士党キャヴァリアーズと激突する。



 一六四三年十月十一日、ウィンスビーの戦い。

 この戦いの経緯としては、一六四三年六月三十日に、議会派ラウンド・ヘッズのファーディナンドとトーマスのフェアファックス父子が、ヨークシャーで騎士党キャヴァリアーズのニューカッスル伯ウィリアム・キャヴェンディッシュに敗退したことに始まる。

 この戦いのあと、フェアファックス父子は、ハルという都市に逃げ込む。そこをさらにニューカッスル伯に包囲されてしまい、進退極まってしまう。


「フェアファックス父子を救うべし」


 そういう声が、議会派ラウンド・ヘッズ東部連合イースタン・アソシエーションの中で上がっていた。

 しかし、ここで軍の幹部の「それぞれの地元の利益」を盾に、出撃拒否とまではいかなくとも、消極的に「そのうち」とか「落ち着いたら」という対応が相次いだ。


「こういう軍のあり方、組織の命令系統はよくない」


 クロムウェルはこれを憂慮し、それがのちのニュー・モデル(国民軍)創設へと繋がっていくのだが、それは別の話である。

 そして、ここで騎士党キャヴァリアーズニューカッスル伯が動いた。議会派ラウンド・ヘッズの消極的な姿勢に食指が動いたのか、リンカーンシャーへと向けて、兵を進めたのだ。


「好機である」


 これはクロムウェルの言葉である。何せ、他ならぬ東部連合イースタン・アソシエーションに加わったばかりのリンカーンシャーを守るという理由がある。

 これならば、消極的な連中も拒めまい、という意味で、好機だった。



詩篇サームを唱えよ!」


 クロムウェルの連隊は、ウィンスビーの地にて、騎士党キャヴァリアーズの軍の側面に向かって、攻撃を加えることに成功する。

 その団結力は称賛に値し、文字どおり一丸となって敵中に突撃し食い破る様は、騎士党キャヴァリアーズの軍を恐怖と混乱におとしいれ、ついには敗走へと追い込んでいった。


「……クロムウェルを、東部連合イースタン・アソシエーションの副司令官に」


 ウィンスビーの戦いの功績により、オリヴァー・クロムウェルは副司令官に昇任した。同時に司令官のマンチェスター伯から指揮を任され、事実上の東部連合軍の司令官となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る