第5話 ギャルと休日

翌日。


 昼から夕方までラーメン屋のバイトだというギャルは、俺の作ったおにぎり二つを食べて、午前中に帰った。

 夜はラーメン屋のまかないがあるというから、食事は心配ないらしい。


 というわけで昼にはギャルから解放された俺は、近所のスーパーでゆっくり夕食の買い物をした。休日は料理に時間をかけられる貴重なタイミングで、これといって趣味のない俺には、そのゆったりとした時間がうれしい。

 結局鶏もも二枚と玉ねぎ、マッシュルームを買って、俺は家に帰った。



♡HANA♡<よ[15:04]


 15時頃に、ギャルからLIMEが来た。


SO<どうした?[15:09]


♡HANA♡<いまきゅーけいちゅー♡[15:09]


SO<お疲れ[15:12]


♡HANA♡<何してんの?[15:12]


SO<ひみつ[15:14]


♡HANA♡<抜いてたかー……[15:15]


SO<違うわ![15:15]


SO<晩飯作り始めた[15:16]


♡HANA♡<早くね?[15:16]


SO<休みの日はじっくり作るんだよ[15:23]


♡HANA♡<老後みたい[15:25]


「誰が老後だ!」


 と、リアルでツッコんでみても、もちろん応えはない。

 どうにかしてこいつに一泡吹かせてやろうと、俺は料理の工程を逐一LIMEに載せることにした。


SO<今肉切って焼いてる(写真)[15:32]


♡HANA♡<おい[15:32]


SO<玉ねぎと、にんにく、生姜入れたらすげーいい匂いになってきた(動画)[15:39]


♡HANA♡<ジュワーじゃないよ!コラ![15:40]


SO<マッシュルーム入れて煮込んで……(写真)[15:45]


♡HANA♡<まさか[15:45]


♡HANA♡<次早く[15:45]


SO<ルーと隠し味入れて煮込んだらカレーの完成です!(写真)(動画)[15:55]


♡HANA♡<うわー[15:55]


♡HANA♡<大好物きた[15:56]


SO<ガキか[16:02]


♡HANA♡<きゅうけい上がるね。あと今日食べいくか[16:02]


 不吉な所でLIMEが途切れた。俺は胸騒ぎを覚えた。やらなくていいことをやってしまったかもしれん。





「おきゃーり!」


「落ち着いて食えよ……」


 昨日に続き、ギャルとの晩飯となった。ラーメン屋のまかないは食べずに帰ってきたらしい。ちょっとしたいたずらのつもりで送ったLIMEが薮蛇になってしまった。


「マジでおいしいね!」


「それはよかった」俺は二杯目のカレーをギャルによそってやった。


「野田っち料理の天才?」


「まさか」


 俺なら家のカレーよりラーメン屋のまかないを選ぶけどな。といいつつ、自分も二杯目のカレーを皿によそった。


「ラーメン屋のまかないもおいしいんだけどさ、バリエーションが多いわけじゃないから、違うの食べたい時もあるよね」


「なるほどな。ちなみに明日のまかないは?」


「明日はマスドだからドーナツ!」


「晩飯ドーナツ?」


「ふっ……女子高生なめんなよ」


 他愛のない会話が、心地よかった。物心ついてから家族で食卓を囲むということがなかったから、正直、この時間は楽しかった。

 ただ、どれだけ俺たちが食事を共にしても、ギャルと真希をうまく繋ぎ合わせる妙案は生まれてこないのだった。

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