第8話 あぎょうさんさぎょうご②
私は絶望し、思わず声を漏らす。
「うっ、うそ...」
すると、なぜか老婆はその場から立ち去っていった。
急に恐怖と緊張感から解放された、反動からだろうか?
私は、全身から力が抜け、しばらく呆然としていた。
そして、ハッとなる。
本当に、心臓が止まるかと思ったよ。
本日二回目の人生最大のピンチだったよ、、、
入学初日から学校へ忘れ物をし、1日に二度も死にかけるなんて、やっぱあり得ないよねえ、、、
それにしても、どうして老婆は急に立ち去っていたのだろうか?
まあ、助かったんだからいいよね。
そして、私はゆっくりと立ち上がると、そのまま帰路へ着こうとした。
今日は色々と怖い思いをしたものだ。
早く帰って、作文を仕上げよう。
私は一歩を踏み出そうとした、その時だ。
「ぎゃぁぁーーー!!
なんじゃね君は!」
廊下中に誰かの悲鳴が響き渡ったのだ。
いったい、今度は何!?
この悲鳴は尋常じゃない。
気づけば、反射的に私は悲鳴のする方へ駆け出していた。
すると、あの恐ろしい老婆が、誰かに鉤爪を振り下ろそうとしているのが私の視界へ入ってきた。
老婆の正面には、腰を抜かした校長先生がへたり込んでいた。
それを見た瞬間、考えるより先に私の体が動いた。
「えーいッ!!」
私は、肩に下げたバックの紐を右手で掴むとそれを老婆めがけて思いっきり投げつけた。
私の投げたバックは見事、老婆に命中。
「あギョッ!?」
老婆は驚きの声を漏らし、動きを止めた。そして、老婆は憤怒の形相を浮かべながら、私の方向に向かってくる。
えっ、どうしよう!?
つい、反射的にやっちゃったけど、この後のことは何も考えてないよ、、、
眼前まで迫り来る老婆、振われる鉤爪。
しかし、その鉤爪が私に振り下ろされることはなかった。
なぜなら、どこからともなく飛んで来た2枚の紙切れが老婆の左右の眼球に張り付いたからだ。
パァン!!
そして、紙切れが音を立てて爆ぜたのだ。
「アギョーーーーーッ」
老婆は苦悶の声を上げながら、顔を手で覆っていた。
すると、シュッ!という、音と共に誰かが私の横を通り過ぎていった。その人物は大きく跳躍すると、一瞬で老婆の横を横切った。
気がつくと、老婆の体は横一文字に真っ二つに裂かれていた。
「アギョーーーーーーーゥッ」
老婆はけたたましい悲鳴をあげながら黒い霧となり、闇に溶け込むようにして消えていった。
私は顔を上げて前方へ視線を向けると、日本刀を手にした巫女服の少女が立っていた。
そして、彼女は刀を鞘に仕舞いながら、私に向かって近づいてきた。
「危なかったわね。
間一髪ってとこかしら」
「あ、ありがとうございます。
あなたは?」
私は、目の前の人物が何者なのかを訊ねる。
「私は、夢幻の巫女よ。巫女といっても普通の巫女じゃないんだけどね」
私の問いかけに対し、目の前の人物はそう答えた。
「どうしてこんなところに巫女さんが?」
私は、続け様に問いを投げる。
「春休みに学校で変なお化けが出たって噂になってたから、来てみればあんたが襲われてたってところね」
どうやら、さっき
すると、巫女さんは少し
「あなたって、相当霊感が強いのね。
これだけ強いと、色々と不便でしょ?」
あれ?どうして分かったのかなあ?
「はい。確かに、私は生まれつき霊感が強いです。
それにしても、どうしてわかったんですか?」
私は、彼女へどうしてそれが分かったのかを訊ねる。
「あなたが、そういった気を
「気ですか?」
「気というのはオーラのようなものね。あんたみたいな霊感の強い人間は、独特な気を纏ってるものよ」
どうやら、私からはそういったオーラのようなものが出ているようだ。自分では全く自覚がないのだけれど。
すると、巫女さんは胸元に手を入れると、私に何かを差し出してきた。
「はい、これ」
私は、差し出されたものを両手で
そして、手の上のものを見てみると、それは神社で売られているお守りのようなものであった。
「何ですか?それは?」
私は、巫女服の少女へそう問いかける。
「悪いものを寄せ付けなくする魔除けのお守りよ。これで、あなたの周りに変なものが寄り付かなくなると思うわ」
どうやら、それは魔除けの効果があるお守りのようだ。
「貰っちゃっていいんですか?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます。
これからは
これで、私は以前のように悪い霊に悩まされることはなくなるのかなあ?
「でも、気をつけて。このお守りは大抵のには効くけど、ものすごく強い霊には効かないこともあるから」
どうやら、完全に防げるわけではないらしい。
ちょっと心配だなあ、、、
「と、言ってもこの町でもそんなに強い霊は滅多にお目にかかれないわ」
それなら安心だ。わたしの周りから変な霊がいなくなれば、大分快適に暮らせるだろう。
「よかったら、今夜は遅いから家まで送るわよ」
すると、巫女さんは私を家まで送ってくれると言ってくれた。
私は、巫女さんの後ろをチラリと見ると、校長先生が倒れているのが目に入った。どうやら、白目をむいて気絶しているようであった。
完全に忘れていたなあ、、、
流石に、放っておく訳にはいかないだろう。
「校長先生を、校長室に運んでからで」
「ええ、それでいいわよ。私も手伝うわ」
私は近くに落ちていた鞄を拾い上げて肩にかけると、校長先生の近くに移動した。そして、私は校長先生の両腕の付け根に手を入れ、校長先生の上半身を起こした。
巫女さんが校長先生の両足を掴むと、私たちは校長先生を持ち上げた。
意外と、人って重いんだな、、、
そして、私たちは校長先生を保健室まで運んでいき、ベッドに寝かせた。
なんだか、腕が
どうやら、巫女さんは平気そうである。
そして、私と巫女さんは保健室を出て帰路に着いた。
◆
それから、後のことはあまりよく覚えていないが、巫女さんに送ってもらって、いつのまにか自分のアパートの部屋の前まで、着いていた。
巫女さんにお礼を言って別れた後、自分の部屋へ入ると、ベッドへ倒れ込み、横になる。
今日は、色々とあって疲れたので、そのまま寝ようとした。
しかし、明日の宿題の作文のことが頭をよぎった。
「もう眠いし、やりたくないなあ、、、」
作文をやらなければ、さっきまでの苦労が水の泡になってしまうではないか。
ベッドから起き上がった私は、カバンを拾い、机へ向かった。
そして、私は、作文用紙と筆記用具をカバンから取り出すと、眠気を我慢しながらも、明日の宿題に取り掛かった。
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