第6話 夢幻の巫女

 私の名前は夢幻鳴子。

 現在、夢幻神社というところで巫女を努めている。一様、巫女という肩書きだが、夢幻の巫女と呼ばれる特殊な巫女で、普通のそれとはかなり異なっている。


 現在、私は神社の境内でお祓いを行っているところだ。

 私の足元には5芒星があり、周りには霊力を増幅するための記号や呪文が書かれている。

 その中心には一本の木の柱が立ち、一人の制服を着た男子生徒が縄で縛られていた。彼の全身や縄の上にはたくさんの御札が貼り付いており、縄の下では彼の身体に菱形を連ねたような紐が絡まっていた。


 その男子生徒は今日、入学式で急に暴れ出した生徒である。

 私は彼をすぐに止めようとしたのだが、体育館入り口に殺到する生徒の波に呑まれ、うまく身動きが取れなかった。そのせいで、あんな大惨事が起きてしまったのだ。

 救えなかった生徒や先生のことを思うと、私は悔恨の念に包まれた。

 幸い、とある金髪少女のお陰で簡単に彼を拘束することができたのだが、、、


「放しやがれbmglgptlhpuj・・・」

 私が男子生徒に近づくと、彼は苦しそうな声でうめき声を上げた。


 私は、左手に持ったお神酒を彼に向かって振りかけると、祝詞を唱える。


「夢幻の神の名の下に、悪しきものを払い給え、かしこみかしこみ申す」

 私は、祝詞を唱えながら、右手に持ったお祓い棒を振るった。


「グァァァーーーーーーーッ!!」

 すると、男子生徒はかなり苦しそうな叫び声をあげた。

 そして、彼の口の中から何かが飛び出した。


 それは、黄金色の肌に長めの鉤鼻。狐のような顔をしていて頭には逆立った毛が生えており、灰色でボロボロの布をまとっていた。


 男子生徒の口から飛び出したそれは、一目散に神社の鳥居まで駆け出した。


 そして、結界にぶつかり倒れ込んだ。


 私はそれに向かって御札を投げつける。


「ギャァーーーーーッ」


 すると、それは炎に包まれ、断末魔を上げながら消え去った。


 しばらくすると、気を失っていた男子生徒はおぼろげな感じで目を覚ました。

「ここは・・・

 俺は一体・・・」


「大丈夫?」

 私は、彼へそう声をかける。


「ああ」


 そして、私は男子生徒に今日起こったことの全てを話した。


「俺、

 ヒクッ、

 俺・・・」

 すると、男子生徒は目にいっぱいの涙を浮かべ、嗚咽を漏らしすすり泣いた。


「大丈夫よ、

 貴方は悪くない・・・」

 私は背中をさすりながら彼をそうなだめた。


「でも、

 俺、

 これからどうすれば、、、」


 すると、その男子生徒は自らの今後を憂い、そう呟いた。


「貴方の処遇については夢幻家の方でなんとかするわ。

 ま、遠くの学校に転入っていう形になると思うけど」


 その後、私は彼を神社の使用人に預けた。

 今日は妖怪や悪霊絡みの依頼が3件も入っている。


 私は、神社の鳥居を出て、夕暮れ時の街に足を進めた。

 もうこれ以上、彼のような怪奇な事件によって悲しむ人間を出させないために。



 ◆

 赤い絨毯じゅうたんが引かれた、薄暗い部屋。壁に立てかけられた蝋燭ろうそくが、ほんのりと室内を照らしていた。


 そんな部屋の中に響く、ピチャッ、ピチャッと何かが滴る音。


 部屋の中央では、裸の少女の死体が天井から逆さに吊り下がっており、真下にある桶に向かって血が滴っていた。


「北折、血を」

 薄暗い部屋のなか、金色の髪の豊満な肢体を持った美女の呟き声が響いた。


「御意」

 すると、一本の鋭いナイフが死体に向かって飛来し、グサッ!!という鈍い音と共に突き刺さった。

 傷口からは、まるで滝のような血が溢れ出し、桶に向かって流れ落ちた。


 そして、ワイングラスを持った少女が死体に近づくと、流れ落ちる血をすくい取った。


 北折と呼ばれた少女はワイングラスが血でいっぱいに満たされると、金髪の美女の眼前にそれを置いた。

「どうぞ、天王寺様」


 すると、天王寺と呼ばれた美女はワイングラスの血を一口飲んで口を開いた。


「北折、今年の一年生はどうだ?

 我がしもべにふさわしい、人材は見つかったか?」


「いえ。早々に夢幻の巫女の邪魔が入ってしまい、実力を測ることはできませんでした。ただ、一人だけ夢幻の巫女に匹敵するであろう、人材がおりましたわ」


「そうか。

 生徒会の方でその娘の監視を行い、あわよくば勧誘してこい。それと、引き続き、他にふさわしい人材がいないか探ってくるように」


「御意。

 ところで、夢幻の巫女についてはいかが致しますの?」


「手っ取り早く、この世から消したいところだが、今はまだ捨て置け。

 戦力が整ってから万全を期してやるつもりだ」

 そして、金髪の美女はもう一口、血のワイングラスを飲み、一旦テーブルへそれを置く。


「もう一つ、頼みたいのだが、この薄紅色の髪の娘のことが知りたい。

 こいつの情報も頼めるか?」

 すると、金髪美女は机の引き出しから一枚の写真を取り出すと、それを机の上に置いた。


「この娘が、どうかしたんですの?」

 金髪美女へ問いかける、北折。


 その写真には、薄紅色の髪をした、とある1人の少女が写っていた。

 おそらく、その写真は校舎の2階あたりから、撮影されたものだろう。


「校舎の窓から外を眺めていたら、偶然にも歩いているこの少女を見つけてなあ。

 無性に気になって、ボーっとながめておったら、なんだかこの写真の少女の血を飲んで見たくなったのだ」


「明日にでも、見つけ次第すぐに拉致らちいたいたしましょうか?

 私の能力を使えば、造作もないことですわ」


「いや。

 今はまだいい。この娘のことをもっと深く知ってからが良いのだ」


 そんな二人の姿をゆらゆらと揺れ動く蝋燭ろうそくの灯りが、おぼろげに照らしていた。

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