第4話 入学式の惨劇②
だが、包丁が私の体に届くことはなかった。
すると私の耳に、
ズガーーッ!!
という交通事故のようなものすごい音が入ってきた。
瞑っていた目を恐る恐る開けると、さっきまで男子生徒がいた場所のそばに、金髪少女が立っていたのだ。
私は体育館の後方の壁に目を向ける。
すると、そこには不思議な光景が広がっていた。
なんと、男子生徒は首がおかしな方向に曲がり、壁にめり込んでいたのだ。
体育館の壁は、男子生徒を中心にして、ヒビが走っている。
「大丈夫か?」
金髪少女は私を振り返りながらそう声をかけてきた。
「うん、平気、、、」
私は思わず、そう答えてしまったが、未だに心臓バクバクである。
すると、体育館の壁からカサカサという音が聞こえてきた。
「痛えじゃねえか」
男子生徒は氷のような冷たい目で金髪少女を睨みつけると、壁から抜け出してきた。
どうやら、彼の頬は拳の形に陥没しているようである。
驚きと呆れが混ざったような声で呟く金髪少女。
「おいおい、これ食らってピンピンしてんのかよ」
すると、男子生徒は右手で頭を、左手で顎を引っ張ると首を元の位置に戻した。
そして、近くに落ちていた包丁を拾い上げる。
彼は、そのまま包丁を構え、金髪少女めがけて突進しようとする。
えっ?これは、マズイかも、、、
どうしよう。
私は、再び強烈な、緊張感や不安に襲われる。
男子生徒が一歩を踏み出そうとした、まさにその時だ。いきなり彼目掛けて、どこからか紐のようなものが飛んできた。
そして、紐状の物体は、男子生徒の身体に巻き付いた。
それは、たくさんのひし形が連なったような形をしていて、紐の両端には御札が付いており、男子生徒の尾てい骨とうなじあたりに張り付いていた。
床に倒れ込む、男子生徒。
「なんだこれは、
外せ、このヤロー!!」
彼は、叫びながら、自分の体を芋虫のようにうねらせ、その場でもがき始める。
私は、紐が飛んできたであろう方向へ目を向けると、さっき壇上でスピーをしていた黒髪の少女が立っていた。
「あっ、
お前は、あの時の!!」
すると、目の前の金髪少女は黒髪の少女を指差しながらそう叫んだ。
「悪いけど、用があるんなら後にしてくれる?
今は忙しいの」
黒髪の少女は金髪少女に向かってそう言うと、暴れている男子生徒を担ぎ上げた。
「離せ!この野郎!!
いい加減、離せよッ!!」
男子生徒は怒声を放ちながらももがき続けだが、少女はそれを意に解さずにそそくさと体育館から出て行ってしまった。
私は、人生で初めて殺されそうになった恐怖からか、しばらく呆然としていた。
少し頭が冷えてくると、金髪少女へ助けてもらったことへのお礼を言おうとしたが、どこかに姿を消してしまっていた。
いったい、どこ行ったんだろう?
金髪少女を探しつつ、周囲を見渡してみると、椅子が散乱し、多くの生徒や教師が姿を消していたが、一部の生徒たちはまだ残っているようだった。
堂々と腕や足を組んで座っている生徒、未だに寝ている生徒、近くの人と椅子に座りながらひそひそと何かを話している生徒が何人か見受けられた。
あの人たち、どうしてあんなに平然としていられるんだろう?
逃げなくて、よかったのかなあ?
私は、体育館の前の方に移動すると、壇上の下から、か細い声が聞こえてきた。
「おそげぇー...
おそげぇー...
おそげぇー...」
どうやら校長先生があまりの恐怖で壇上の下にうずくまり、震えているようだった。
私は、金髪少女を探してお礼を言うため、体育館の外に出ることにした。
校門前の桜並木まで歩くと、ちらほらと他の生徒や教師が見受けられ、近くの人と話したり、スマホをいじったりしているようだ。
金髪少女を探してみたが、それらしき人は見当たらなかった。
すると、
ピンポンパンポンという音が流れた。
どうやら校内放送が入るみたいだ。
『えーっ、
校内に残っている生徒にお知らせします。
これから1時間後に入学式を再開いたします。
校内に残っているみなさんは時間までに自分の席に着いてください
繰り返します...』
放送が流れると、周りの生徒たちはざわめき立つ。
「おいおい、マジかよ!」
「本当にやるの!?」
え?本当に?
私は、耳を疑ったが、どうやら1時間後に入学式が再開するようだ。
それまで私は、金髪少女を探しつつ、学校の周りを散策してみることにした。
◆
入学式が再開される時間が近づくと、私は体育館に戻っていった。
中に入ると、乱れていた椅子は整然と整列されていた。
血痕や生徒の遺体も、きれいさっぱりとなくなっており、体育館の後ろの壁には白い布がかけられていた。
よくこんな短期間で、後始末や再開の準備ができたものだ。
私は、正直、大変驚いていた。
入学式が再開されると、校長先生の話が再び始まった。
そして、校歌を歌い終えると、入学式は幕を閉じた。
ちなみに、金髪の少女は入学式には戻らなかったようだ。
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