異世界最強の女子高生 〜空手世界大会で優勝したら、異世界の女神に世界最強と勘違いされて異世界召喚された。気付いたら奴隷にされてたけど、女神からもらったレベルアップスキルで異世界最強を目指します〜

阿々 亜

第1話 異世界召喚

 広い広いアリーナに、複数の音が絶え間なく響いている。


 試合場のマットが軋む音……

 道着の衣擦れの音……

 突きの打撃音…

 蹴りの打撃音……

 打撃とともに放たれる気合の声……


 会場には1万人近い観衆がいるにも関わらず、会場じゅうに響き渡っているそれらの音を生み出しているのは、たった二人の少女だった。


 一人は日本人で、黒く長い髪をうなじで一本に束ねている。

 もう一人は白人で、金髪のショートヘア。

 身長はともに160cm後半といったところで、肉付きも二人とも同じくらいだった。

 そして何より、二人とも同じデザインの空手道着に黒い帯を締めていた。


 互いに一歩も引かぬ攻防を10分以上続けていたが、次第に日本人の少女が押し始め、白人の少女は防戦一方となる。

 そして、日本人の少女の中段蹴りが相手の脇腹を捉え、白人の少女はバランスを崩しうずくまる。

 数秒後、試合場中央の主審が左手を上げ、四方の4人の副審も左手の白い旗を上げる。

 その判定を見て、会場中が一斉に歓声をあげる。


「やりました、浅野一葉あさの いちは!! フルコンタクト空手世界大会、女子55kg級優勝です!! 若干17歳!! 世界最強の女子高生の誕生です!!」


 インターネット生配信の放送席ではそんな宣言がなされ、その声は優勝した少女、浅野一葉の耳にも届く。


 世界最強って……

 大げさだなー……


 一葉はその理知的な瞳をすーっと細め、薄い唇の隙間から「はぁ」とため息を吐いた。


 でも、これで……

 少しはアイツに近づけたかな……


万里ばんり……」


 周りの誰にも聞こえぬほど小さな声で一葉はその名前を呟き、静かに天を仰いだ。

 物思いに耽る一葉に、どこからともなく奇妙な声が降ってきた


『ほー、世界最強……』


 女の声だった。

 少しくぐもっており、まるで頭の中に直接響いてくるようだった。


 え……


 不可思議な声を一葉が怪訝に思った次の瞬間、一葉の周囲の試合会場は消滅した。


「なっ!?」


 一葉は状況を全く理解できなかった。

 一葉の体は、星々が煌めく宇宙のような空間に放りだされていたのだ。


『いやー、こんなにも早く見つかるとは……つくづくオレも幸運だねー……』


 再び謎の声が一葉の頭の中に響く。


「何!? いったい何が起こってるの!?」


 動揺する一葉の目の前に、どこからともなく光の粒子が集合し、粒子は程なく人の形になる。


『いやー、悪いねー。突然、らちっちゃって』


 神話に出てきそうな古めかしい漆黒の衣、長い銀色の髪、白く透き通るような肌。

 顔は美しく整っているが、どこか人を小ばかにしているような軽薄さが張り付いている。

 全身から神秘的な神々しさを放っているのに、表情の軽薄さが全てを台無しにしていた。


「あなた、なんなの!?」


 一葉は不審に満ちた目でその人物を睨みつけた。


『オレはヴァレリス。まー、すごーく平たく言うと、神様ってヤツ』


「何をバカな……」


 にわかには信じられない内容に、一葉は不審感をさらに強める。


『信じられないだろうし、信じなくていいよー。神様って言っても、お前さんたちの世界のじゃないしねー』


「お前さんたちの世界?」


『そう、お前さんたちの世界。そして……」


 ヴァレリスがそこで言葉を止めると、遠くに煌めいていた星々が凄まじいスピードで一方向に動き出す。


「今度は何!?」


 星の光は線になり、次々と二人の周りを通り過ぎていく。


 ものの数秒で光は止まり、二人の目の前には巨大な惑星が出現していた。

 ヴァレリスはその星を指さして、先ほどの続きの言葉を発する。


『オレの世界!! ヴァルオリア!!』


 一葉はその惑星を見て、困惑した。


 地球……

 いや、似てるけど、違う……


 その星は地球と同じ岩石惑星で、青い海に緑に満ちた大陸が浮かんでいたが、大陸の形や分布が地球とまるで違っていたのだ。


『実際どんなカンジかは現地で確かめてねー。さて、そろそろ本題に入ろうか』


 そう言うと、ヴァレリスの姿はぱっと消えてしまうが、数秒後、惑星の数十倍の大きさになって現れる。

 ヴァレリスは、その巨大な両手で愛おしそうに惑星ヴァルオリアを包み込む。


『この世界で近々ちょっとした大会があってねー。お前さんはそのゲスト選手ってわけ』


 唐突過ぎる話に一葉は怒りを滲ませて叫ぶ。


「何で私のなのよ!?」


『お前さん、最強なんでしょ? あの世界の』


 いつの間にか元のサイズに戻ったヴァレリスの顔が一葉の眼前に現れていた。


「違う!! 私は最強なんかじゃない!!」


『またまたー、そういう謙遜とかいいからー』


 ヴァレリスはニヤニヤした表情でパタパタと手を振る。


「違う!! 謙遜なんかじゃ……」


『あー、わかった、わかったー。たしかにウチの世界、モンスターとかもウヨウヨいるから、あのカラテとかいうのだけじゃ、さすがに厳しいだろうしー』


 ヴァレリスは腕を組んで考え込むような表情をする。


「モ、モンスター……」


 聞き捨てならない単語に一葉は身震いする。


『だから、ハンデつけといたげる』


 ヴァレリスが右手を一葉の方にかざし、一葉の体が光る。


「なに……なにをしたの?」


 自分の体に何をされたのか?

 言い知れぬ不安に一葉の表情が曇る。


『せっかくだから最初はハンデなしでやってみてー。お前さんが本当に殺されそうなときに発動するようにセットしとくからー』


「殺されるって……」


 またも聞き捨てならない単語に一葉は青ざめる。


『でー、ハンデの内容だけどー……うーん、今はヒミツにしとこうかなー……ハンデをどれだけ活かせるかは、お前さんの行い次第だよ』


「ちょっと、ちゃんと説明しなさいよ!!」


 テキトーなヴァレリスを一葉が怒りを露わに糾弾するが、ヴァレリスは構わず話を締めくくる。


『よし、オリエンテーションはこんなとこでいいかなー。まあ、せいぜい死なないように頑張ってー』


「待ちなさい!! まだ他にも聞きたいことが!!」


 とっとと退散しようとするヴァレリスに、「逃がすか!!」と一葉が手を伸ばすが、ヴァレリスは「じゃーねー」という言葉を残して消えてしまい、それと同時に一葉の意識もぷつりと途切れてしまう。




 どれだけの時間が経ったのか……

 あるいはコンマ一秒の時間も経っていないのか……

 浅野一葉の意識は覚醒した。


 一葉は周りを見回して、無意識に呟く。


「どこ……ここ……」


 そこはどこかの森の中だった。

 だが、一葉の目に映る森の景色は、黒い鉄格子越しだった。


 檻……


 自分を囲むものが、本当に檻なのか確かめようと手を伸ばそうとして、さらに思わぬ事態に気づく。

 一葉の両手は鉄製の手枷に硬く囚われていたのだ。


 え……


 しかも、手枷から伸びた鎖は一葉の首元に伸びていた。

 恐る恐る一葉は両手で自分の首を触る。


「なに……これ……」


 一葉の首には、冷たい鉄の首輪が嵌められていた……



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