モブザコ無双~いじめられっ子でゲームオタクな男子高校生、ゾンビゲー世界のモブザコに転生するも鍛えたゲーム知識と経験により無双する~

杜甫口(トホコウ)

第1話 ノブ、ゾンビゲーの世界に入ってしまう

 放課後。

 帰りのHRの後も、僕はずっと席に着いたままでいた。

 机の上に置いたカバンには今日持って帰る教科書が全部詰まってる。

 今すぐ帰りたかった。

 でも帰れない。


「だろ? それでさ」

「「「「ギャハハハハハハハ!!」」」」


 僕の背後。

 教室の後ろの席で騒いでいる連中がいる。

 男が三人に、女子が二人。

 男子は髪を明るく染め、ピアスを付けたりタトゥーを入れたりしていた。

 女子も垢ぬけたギャルみたいな見た目をしている。


 僕が帰れない理由は彼らにあった。

 彼らから『お声が掛かる』のを待っているのだ。

 お声が掛かった場合、即座に反応しないとマズい。

 いきなりボコられる事は滅多にないけど、罰金とか肩パンとかを食らう可能性が結構ある。

 だから僕は全身全霊で彼らの談笑に耳を傾けている。


「中山」


 やがて、彼らのうちの一人が僕の名を呼んだ。

 即座に振り向く。

 僕を呼んだのはリーダー格の山本くん。

 赤髪短髪で筋肉質の大男で、まるでヤクザの若頭みたいだった。

 そんな山本くんが手招きしてくる。

 僕は即座に席を立つと、「な、なに……!?」山本くんの所に向かう。


「俺の代わりにプリント貰ってきて。

 先生から取りに来るよう言われてるから」


 山本くんに頼み事をされる。

 頼み事をされたら、それは聞かなければならない。

 なぜなら『山本くんから嫌われたら終わり』だから。

 山本くんの頼み事さえ聞いていれば嫌われない。

 嫌われなければ攻撃される事もない……はず。


「う、うん……! いいよ……!」

「さんきゅ中山。

 やっぱお前いい奴だわ!」


 言われて、バン! と肩を叩かれた。

 けっこう痛い。


「じゃ頼んだ」


 言って、山本くんが右手を振った。

 その右手をそのまま近くの女子の胸に突っ込む。

 キャッキャウフフの乱痴気騒ぎが始まった。

 もう誰も僕の事を見ていない。


(よかった、これで殴られない……!

 さっさとプリント貰ってきて、その後帰ろ……!)


 そう安心した僕は、足早に教室を後にしようとした。

 だが。


「中山。

 そういやお前、こないだ俺の宿題やってこなかったな?」


 教室を出る直前、山本くんに言われてしまった。




 □□




 翌日。

 深夜3時。

 僕はパソコンの前に座って大好きなゾンビゲーをプレイしていた。

 かれこれ8時間はぶっ通しでやってる。

 何もかも忘れたかった。

 特に山本くんの事は。


「……」


 昨日。

 結局山本くんの『遊び』にみっちり付き合わされた僕は、昨日の夜8時ごろ自宅アパートに帰ってきた。

 もちろん殴られた。

 理由は『山本くんの宿題をやってこなかったから』。

 しかもお金まで取られた。

 ホント理不尽だ。

 そもそも宿題を他人にやらせようってのがふざけんなだし、

 しかもその宿題だって『やらなかった』んじゃなく『やれなかった』んだ。

 だって宿題をやってこいって言われた当日、僕は山本くんの遊びに付き合わされていたんだ。

 深夜1時まで。

 理由は分かってる。

 山本くんは初めから僕に宿題をやらせないようにしたのである。

 先生も山本くんにはビビってるから、何も言わないし。


 はあ。

 今日も学校。

 寝なきゃとは思うけど寝れない。

 少しでも遊ばないと死ぬ……!


 今僕がプレイしているのは『ゾンビランド』という名作ホラーアクションゲームだ。

 このゲームが好きすぎて、もう一万時間はプレイしている。

 何が面白いかって、ゲームとしての出来がいいとかもあるんだけど、ゲーム内で操作できるキャラの中に山本くんに似た不良キャラがいるのだ。

 大抵この不良に爆弾を持たせてゾンビの群れに突っ込ませている。

 イキってるザコが情けない面であちこち逃げ回った挙句どうしようもなくなって自爆、という流れが最高にキモチイイ。


(それだけじゃない……!

 このゲームにはキャラごとに『好感度』という概念がある……!

 だから例えば僕に対する好感度ゲージを上げまくって媚びさせたりもできるし、わざと敵対してぶっ殺すのも楽しい。

 更には不良が好きな女キャラを口説いて、僕の女にしたりもできる。

 これもめっちゃ楽しい。

 最高の憂さ晴らしになる……!)


 僕はさっそく不良をイジメ始めた。

 不良の無様な姿を見ていると実に癒される。

 だけど、そんな喜びも束の間。

 どんどん虚しくなってくる。


 こんな事がしたいわけじゃない。


「……」


 時計を見れば、もう深夜の0時を周っていた。

 明日も学校だから、そろそろ寝ないといけない。

 だけどまだ寝たくない。

 寝たら明日だから。

 明日なんて一生来て欲しくない。


(なんで僕はゲームの主人公じゃないんだろう……!

 僕がもし主人公だったら、

 なんかすごい困難とか突破して、

 皆の役に立って、褒められて、期待されて、それに応えて称賛される。

 そんな人生が送れたかもしれないのに……ッ!)


「……いや、僕なんかが主人公になったって一瞬で殺されるだけだ。

 僕は弱いし情けないから……」


 現実を認識するとドッと疲れる。

 僕は溜息を吐いた。


 学校、行きたくない。


「もういい……。

 今日はサボってゲームしちゃおう……。

 後で山本くんに殴られるかもしれないけど、もう限界すぎる……!」


 僕はパソコン画面を見直した。

 すると、画面に不思議な紋様みたいのが現れる。

 バイオハザードマークみたいなやつ。

 一万時間プレイしてきたけど、こんなの見たの初めて。


 なんだ?

 ウイルス?


 なんて思っているうちに、急にめまいがしてきた。

 マズいと直感し、僕は立ち上がろうとする。

 だが立ち眩みがして足を滑らせてしまった。

 そのままパソコンに向かって倒れ、僕のおでこに硬い何かがぶつかる。

 たぶんモニターか。

 何もわからない……。


 ズキッという一瞬の痛みの後に、体が不思議な高揚感に包まれ、意識が混濁としていくのを感じた。


(これ…なに……?)


 体に力が入らない。

 そのまま視界が暗くなっていった。






―――――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


こつこつ毎日更新していければと思っております。

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