第13話 帰還と詭弁

 魔王城を出て、王子がいる町へ。

 合流を果たすと、王子と騎士たちはすでに出発の準備を終えていた。


「よし、戻ったな。

 では出発だ」


 いや、ちょっと休ませてくれよ。

 そんな俺の願いもむなしく、奴隷の首輪の効果で体が勝手に動き出す。

 体は勝手に動くが、疲労感や倦怠感は感じるのだ。痛いとか熱いとかも。

 王子が何もしないだけなら、期待するのをやめればいい。だが飲まず食わずから始まって、睡眠妨害、休養なし……害悪だ。期待するのをやめても、なお怒りを覚える。俺はもう1回倒れるかもしれん。



 ◇



 倒れた。

 どこまで意識があったのかすら覚えていない。

 気づいたら王都の近くだった。馬車の後方、荷台部分に荷物と一緒にくくりつけられていた。

 叩き起こされなかったのは、もう魔王を倒したから俺をこき使う必要もなくなったからだろう。こいつらに優しさなど期待してはいけない。

 王城からは歓声が上がっていた。先触れが行って、魔王を倒したことがすでに発表されたのだろう。


「殿下。そろそろご準備をお願いします」


「うむ」


 王子が馬車の屋根の上へよじ登る。それ用のはしごが車体側面についていた。

 街を囲む防壁。その門の外に、音楽隊が待ち構えており、王子が屋根にのぼると同時に演奏が始まった。


「王子殿下率いる勇者パーティーの凱旋である!」


 風魔法で声を拡張したのか、放送装置を使ったような大声が轟いた。

 王子が率いる勇者パーティー(王子が勇者とは言ってない)か。鼻で笑うところだが、出発前に命令された禁止事項のどれかに引っかかるらしく、できない。正直全部は覚えてないが、それでも命令が有効なのだから、奴隷の首輪は道具としては優れた性能だ。


「おっと、いかん。忘れていた」


 騎士がやってきて、俺を荷台にくくりつけているロープをほどいた。


「お前は馬車の側面にしがみつけ」


 命令のままに体が動く。

 馬車はそのまま凱旋パレードをしながら王城へ向かった。

 誰もが「王子が勇者」と思っただろう。

 馬車の側面にしがみつく俺のことは目に入らない。入っても「パーティーのメンバーだろう」ぐらいにしか思わない。集まって歓声を上げている群衆の様子から、ありありと見て取れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る