第11話 四天王と装備

 各地を転戦し、魔王軍四天王とも戦った。

 四天王は強かったが、俺にとっては戦えて幸運だった。

 木の棒しか無かった装備を更新できたからだ。


「我は魔王軍四天王が1人、ソードマスター!

 いざ尋常に勝負!」


 手が8本もある虫っぽい魔物だった。

 足は2本なので、合計10本。ベースが何の虫なのか分からないが、胴体が太くて手足は細いし、顎の形がハチみたいになっているし、目はどう見ても複眼っぽい。

 で、その8本の手に、それぞれ異なる刀剣を握っていた。2mを超える大きな剣もあれば、50cmほどの短い剣もある。様々な間合いに対応するためだろう。隙がない。そのうち1つは日本刀そっくりの代物だった。ほしい。


「八刀流ソードマスター、いざ参る!」


 8本の刀剣が凄まじい連携で波状攻撃を仕掛けてくる。

 ひとつの攻撃を防げば、その隙に次の攻撃が確実にヒットする。

 避ければ挟むように同時攻撃を仕掛けてくる。

 持っていた木の棒はあっさり切り飛ばされ、反撃の隙がない。


「おのれ、ちょこまかと!」


 もうちょっとAGIを上げるか?

 いや、ここは技術で押し切るか。

 四天王でもこれほど強いなら、魔王相手には……スペックで劣る状態で勝つ練習をするべきだ。

 て事で、隙がないなら作ってしまおう。切り込んできた剣の側面を殴って砕く。


「むむっ!? 武器破壊か!」


 殴る。砕く。殴る。砕く。

 砕かれないように引くなら、剣ではなく四天王本体を殴るだけだ。

 今度はこっちから詰め寄っていく。

 四天王ソードマスターが後退しながら防御に回る。

 だがその防御に使った剣も殴り砕く。

 最後に残ったのは日本刀みたいなやつだ。ほしいけど、欲を出している余裕はない。殴り砕……けない!? バネみたいにビヨンビヨンして耐えた。バネ鋼で作ってあるのか。なるほど、それなら折れる心配はほぼ無いし、曲がってももとに戻る。剛性が低くて鍔迫り合いみたいな場面では押し負けるが、欠点といえばそれぐらいだ。ますますほしい。

 刀ではなく、それを握っている手を砕き、武器を失った本体を殴り砕く。


「見事……!」


 四天王ソードマスターは砕け散った。

 刀をゲットした。



 ◇



「我は魔王軍四天王が1人、マジックマスター!

 我が魔法の前に散るがよい!」


 骨格標本がローブを着ているような奴だった。

 右手には杖、左手には本を持っている。

 その本がパラパラめくれるたびに、杖から異なる魔法が発射される。まるで魔法のマシンガンだ。あの本と杖が詠唱の代わりになっているのか。いちいち呪文を唱えて発動するのでは、どんなに早口でも追いつかない。

 MENの高さに物を言わせて、あえて攻撃を喰らいながら強引に突っ込み、AGIの高さで対応する暇を与えずに切り込んだ。


「ぐぼあー!?」


 結果だけ見ると、あっさり勝った。

 俺も無事では済まなかったが。火魔法を食らって頭がチリチリになってしまった。足は凍るし、手はしびれるし、他にも色々。

 だが、たくさん魔法を食らったおかげで、各種の魔法や状態異常に対して、どう抵抗すればいいのかなんとなく分かった。


「くそっ……! 体が……崩壊が止まらん……! おのれ……呪ってやる……!」


 マジックマスターが手足の先から灰になって崩れていく。

 その灰の中から、黒い煙のようなものが飛んできて、俺に当たった。

 この感じは闇魔法? それとも呪詛か? どっちにしても、それらは経験済みだ。他ならぬマジックマスターの手によって。

 言うとやるとでは難易度が大違いだが、対処法そのものはシンプルだ。こう、テニスみたいにラケットでボールを打ち返す感じで、飛んできた魔法を自分の魔力で打ち返す。

 ……おや? 打ち返したのにブーメランみたいに戻ってきたぞ。これは呪詛の特徴だな。追い払えないなら押し込むだけだ。魔力のラケットを箱型に変えて、その中に呪いを閉じ込める。そして箱の形を変えながら、呪いの効果が別の方向へ向かうように調整する。パラボラアンテナの角度を調節する感じだ。

 ややあって、調整は完了。呪いは指輪になって俺の指におさまった。この指輪を通して魔法を使うと、殺意マシマシパワーアップ追尾弾ホーミングになる。これで俺の魔法能力は大幅に向上した。

 俺がモニョモニョやっている間に、マジックマスターはすっかり灰になって消えていた。



 ◇



「我は魔王軍四天王が1人、アーマーマスター!

 我が防御は無敵! ゆえに全ての攻撃は無意味なり!」


 そいつは、動く鎧だった。中身がない。

 板金鎧だったので、刀は使わずに殴ることにした。


「げぼおおお!? わ、我が無敵の防御が……!

 貴様、我が弱点を調査済みだったか!」


 意外と簡単に砕けた。

 INTを上げて、拳に爆発魔法を乗せて殴っただけだ。MENとVITはすでに大きく上げてあるため、爆発の威力で俺がダメージを受けることはない。

 拳と爆発魔法。物理と魔法。この同時攻撃が効果的だったようで、アーマーマスターの兜が砕けた。


「だが、その方法ならば我が勝利は揺るがぬ! 喰らえ! 封印攻撃!」


 アーマーマスターが自壊して、ばらばらになった部品が飛んできた。

 そして俺の体に張り付き、俺が鎧を装備した格好になる。


「ふはははは! この密着したゼロ距離ならば、物理と魔法の同時攻撃はできまい! このまま水中に引きずり込んで、貴様の呼吸を止めてや……や……や……ぐぬぬぬ……!? う、動かぬ……!?」


 俺のほうがSTRが高いらしい。

 さて、せっかく鎧を着たのでこのまま意識だけを殺して鎧をゲットと行きたい。

 どうやって、やるか? まずはこいつからだ。


「ふはははは! 馬鹿め、即死魔法などきかん!」


 だよな。ボスは即死無効ってのはゲームでは常識だ。

 では、実体のない相手への専用攻撃ではどうだ?


「ターンアンデッドか。ふはははは! きかん、きかん!

 そもそも我はアンデッドではないからな!」


 なるほど。リビングアーマー的な存在だから、鎧が実体なわけか。

 神聖魔法には邪悪な存在を焼く聖火の魔法があるが、あれだと鎧も焼けてボロボロになるかな? あとは……うーん……ちょっと思い当たらないな。

 では方向を変えよう。意識を殺すのをやめる。


「むおっ!? なんだ、これは!? 魅了……いや、精神攻撃……!?」


 ボスには弱体化以外の状態異常が無効というのも、ゲームではよくある。弱体化すら無効、もしくは頻繁に打ち消す効果のある手段を使ってくることも多い。

 しかし、この世界では状態異常に対する抵抗力は、その状態異常の種類ごとに獲得していなければならない。毒の種類に応じた解毒剤が必要、みたいな話だ。なので麻痺抵抗で毒には抵抗できないし、毒抵抗で魅了には抵抗できない。

 そこで、魅了をベースにして洗脳に近い改造を施した状態異常攻撃を即席で作り上げ、使ってみた。魅了も洗脳も既存の魔法だが、これは新しい状態異常。名付けるとしたら「悩殺」とかかな。当然それに対応する抵抗や無効のスキルは持っていないはずだ。


「あががががが……!」


 根性で抵抗していたアーマーマスターの意識が、急にストンと抵抗をやめた。


「ヨシオ様、私を麾下に加えていただき、ありがとうございます。

 どうぞ、この身を存分にお役立てください」


 ざっとこんなもんだ。



 ◇



「我は魔王軍四天王が1人、デスマスター!

 いでよ、我が配下ども! そして四天王! 我が配下となり、再び立ち上がれ!」


 ゴブリンのおじいちゃんみたいな小さい鬼だった。まるで緑色のザボエ……ん゛ん゛っ! ナンデモナイヨ。

 ずもも……と地面からアンデッドが多数あらわれた。

 倒してきた四天王までアンデッドになって再戦しなけれなならないらしい。


「……おや? アーマーマスターはどうしたのだ?」


 現れたのはソードマスターとマジックマスターだけだった。

 まあね。アーマーマスターは別に死んでない。生きたまま俺が装備してるからね。

 ていうか、マジックマスターは元々アンデッドなのに、アンデッドとして召喚されるんだな。あんな骸骨姿でも「生きている」状態だったのだろうか? それとも何度殺してもアンデッド召喚の魔法で復活するのか?


「まあいい。かかれ、者共!」


 号令一下、アンデッドの群が襲ってくる。

 しかし、アーマーマスターの防御力の前には、そよ風ほどの攻撃だ。

 思考を中断し、指輪を通してターンアンデッドを使うと、襲ってきたアンデッドは残らず灰になった。


「うげ!? 一瞬で! 貴様、ターンアンデッドを使ったな!?

 卑怯者め! そんなの我の天敵ではないか!」


 いやいや、死んだ同僚まで使ってくる上に、ボスラッシュなんか仕掛けてくるような奴に言われたくない。

 バッサリ切り捨てた。

 ま、ネクロマンサーは本体は弱いってのも定番だな。自らアンデッドに変異したようなやつは別として。





















 ちなみに、四天王と戦っている間、王子と騎士たちは遠くで観戦していた。

 あいつら、流れ弾で死ねばいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る