第3話 嘘と抵抗

 ステータスオープン。

 そう唱えると、ステータス画面が現れた。


「見えたようだな。

 だが、そのままでは他の者には見えない。

 そこで――」


 身勝手国王の言葉に従って、騎士が首輪らしきものを持ってきた。


「他の者にもステータスが見えるようになる魔道具だ。

 それを装着し、そなたのステータスを見せるがよい」


 騎士が俺の首へ手を伸ばしてきた。

 俺は1歩さがって避けた。

 だって、おかしいだろ。ステータスを開示するための魔道具が、なんで首輪型なんだよ。道具と呼ばれる以上は「作った人」がいるはずだ。その設計思想として、手で触れる端末とモニター的なものがあるべきで、首輪型にしようと考えるのはよほどブッ飛んだ変態的思考の持ち主だけだ。

 たとえばイギリスの王子が従軍したみたいに、王子が「たしなみ」程度にでも剣術とかをやるとして、その指導者はステータスを見ながら訓練内容を調整するはずだ。そのとき王子に首輪をはめるのか? それは絵面ビジュアル的にちょっと問題なんじゃあないのか?


「何をしておる」


 身勝手国王が不快そうに言った。

 さて、どうやって切り抜けようか。


「魔王を倒せと。

 魔王は強いから自分たちじゃあ倒せなくて、俺を呼び出したと」


「そうだ」


「それじゃあ、どうして俺のステータスを把握する必要があるんだ?

 逆だろ。

 俺があんたらのステータスを把握するべきだ。魔王に挑むのは俺なんだから、俺こそが『こんだけ強い連中でも勝てなかった』というのを把握するべきだ」


「召喚したからといって、今すぐ魔王に勝てるほど強いとは思っておらぬ。

 そも、世界が違うのだから、そちらの世界で出来たことが、こちらの世界ではできないという事が起こり得る。

 従って、まずは力を使いこなすための訓練が必要だ。そして効率的に訓練するには指導者を得るべきだ。その指導者は、こちらの世界での力の使い方に精通していなければならない。

 ここは王宮だ。そなたのステータスが物理寄りだろうと魔法寄りだろうと、どちらでも優秀な指導者をつけてやれる。だが、ステータスが分からぬことには、どの系統の指導者をつけるべきか分からぬではないか」


 魔法寄り? 魔法があるのか?

 やはりこの世界そのものには、ちょっとワクワクする。

 この身勝手国王は嫌いだけど。


「それなら俺がステータスを読み上げるだけで事足りる。

 そもそも物理寄りのステータスだからといって、物理で戦うのが得意とは限らん。逆もまた然り。性格的に前へ出る癖があるのに魔法能力ばかり高かったり、その逆だったりする事もあるだろう。

 ならば重要なのは今のステータスではなく、どの方向へ鍛えたいかという俺の意思であるはずだ」


「だとしても、ステータスを把握しつつ訓練の内容を調整しなければならない。

 ステータスの開示は必須事項だ」


「ならば、まずは騎士たちのステータスを開示してもらいたい。

 目標が明確なほうが、訓練の効果は高くなる」


「よかろう。

 ならば後で騎士たちのステータスを開示させようではないか」


「ダメだ。先に見せてもらう」


「その順番がそれほど重要か?」


「いきなり連れてこられて、わけのわからん道具を使えと言われる。警戒して当然だろう。せめて使っても安全だと証明してもらいたい。

 第一、逆にそっちこそ、順番の要求を飲めない理由でもあるのか?

 ちょっと着けて見せてくれればいいだけの話だ。やってみせてくれよ」


 沈黙が流れた。

 にらみ合い、お互いに引かない。

 ややあって、身勝手国王が口を開いた。


「……捕らえよ」


 確定だ。


「「確保ォ!」」


 騎士たちが一斉に飛びかかってきた。

 俺は逃げた。


「やっぱりなァ!

 首輪型なんて怪しいと思ったぜ! どうせ奴隷の首輪かなんかだろ!?」


「分かっているなら話は早い! 大人しくいたせ!」


「ふざけんな! 誘拐してきて奴隷にするとか冗談じゃねえ! くたばれ、このクソ害悪め!」


「不敬な! ええい! とらえよ! 早う捕らえるのだ!」


 逃げ回っているうちに、視界に表示されたままのステータス画面ではAGIの数値がガンガン上がっていった。比例してEXPの数値がどんどん下がっていく。なるほど「そうなりたい」と願うだけで振り分けられるようだ。

 それなら、まずはAGIを十分に上げて、あとはSTRだな。クソむかつく身勝手国王をぶん殴ってやる。

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