ブラオと奴隷の首輪

@usagi_racer

第1章「犠牲編」

第1話 訃報と召喚

「今日、S市で男性が救急車に轢かれ、死亡しました。

 警察によると、男性は33歳の会社員、吉良――」


 テレビのニュース。

 聞き流していたが、名前に聞き覚えがあって画面に目を向けた。

 吉良……中学校のとき転校してきた奴が、同じ名前だったな。年齢も一致する。……いや、まさかな。


 俺の名前は武良雄(たけ・よしお)。

 武という苗字は、読み方が違う人もいるかもしれないが、全国に6400人ほど居るそうだ。

 吉良が転校してきたとき、同級生の1人が(そいつはお調子者でオープンスケベだった)俺にあだ名を付けた。


「吉良と書いてキラと読むなら、良と書いてラということか。

 それなら


 そして俺は「ブラ(ジャー)」と呼ばれるようになった。

 吉良は「僕の名前のせいで、すまない」と言っていた。お前のせいじゃないよ、と答えたが、吉良とはそれきり微妙な感じになって、卒業後はどうなったか知らない。


 だが、吉良とは何となく馬が合うんじゃないか、という予感があった。

 あいつは、いつも3位だった。

 ナメられず、目立たず。

 そんな所を目指しているように見えた。

 かくいう俺も、ブラオなんて呼ばれるようになるまでは、目立たずナメられずを目指して5位ばかり取っていた。

 なんで3位じゃないのか? 3位だと表彰台に上がってしまうからだ。「もう少し頑張れ。上を目指せ」と応援されてしまう。同じ理由で4位だと「惜しかったね」と言われて記憶に残る。だが5位なら? そういう事だ。

 吉良は俺とは「目立たず」の基準が少し違っていた。5位だって十分にナメられない。吉良は目立ちたくないという部分を除けば、負けず嫌いだったのだろう。

 俺はもっと「目立たず」を重視して「ナメられず」は「褒められもせず」程度でいいと思っている。いつも5位では怪しまれるだろうから、ちょくちょく順位を下げて「調子が良くて5位」という印象を作ったのだ。

 それは大学を出て社会人になってからも続いた。きっと同僚に俺の印象をインタビューしても、直接の関わりがない人からは「誰それ?」という反応しか得られないだろう。それこそが俺の目指すところだ。

 だから、ついに来たか、と思った。


「お疲れ様。仕事帰りですか?」


 いつもの、自宅から一番近いコンビニで、ビールとあたりめを買って会計した。

 そしたら、レジをやってくれたおばちゃん店員が話しかけてきたのだ。

 顔を覚えられた。利用頻度が高いから、それは仕方ない。だがレジで話し込むほど親しく振る舞うつもりはない。


「ええ、そうです」


 そちらは? お互い大変ですね。などと返して盛り上がっては困る。

 そっけなく返して店を出た。


「……うん?」


 自動ドアをくぐって、店の外へ1歩。

 その瞬間、風景が切り替わった。

 思わず後ろを振り返ったが、コンビニは影も形もなかった。


「どこ……?」


 ファンタジー映画とかゲームとかで見るような、いわるゆ「謁見の間」みたいな部屋だった。


「異世界からよくぞ参った、勇者よ。

 我らはそなたを歓迎しよう」


 階段の上、豪華な椅子に座って冠をかぶっている男が言った。

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