第11話:トレントの爺さん
軍隊蜂の助けもあり、森の中を進めるようになった俺とウサ太は、無事にトレントの爺さんの元までやってきた。
ウサ太がトントントンッと木の根元を叩き、トレントの爺さんを起こしてくれる。
すると、少し時間が空いた後、だるそうにしたトレント爺さんがゆっくりと目を開けた。
「トレントの爺さん、植物用の栄養剤を持ってきたぞ。魔物と植物では、体の構造が同じかどうかわからないんだが、そのまま根元にかける形で大丈夫そうか?」
トレントの爺さんが瞳を縦に揺らしたため、俺は根元に栄養剤をかけていく。
植物の魔物にも即効性があるといいんだが……と思ったのも束の間、早くもトレント爺さんに変化が訪れた。
まるで、温泉に入ったかのように恍惚の表情を浮かべているのだ。
生き返る~……という声が聞こえてきそうなくらいなので、少しは元気になってくれることだろう。
「きゅーっ!」
これにはウサ太も喜んでいるみたいで、トレントの爺さんの周りを駆け回っていた。
まったく違う魔物であったとしても、ウサ太とトレントの爺さんは、孫と爺さんのような関係に見える。
そんな微笑ましい光景を見ていると、俺の方まで嬉しい気持ちが芽生えていた。
すべての栄養剤を使い終えると、トレントの爺さんの顔つきが変わり、急にイキイキと動き始める。
活力に満ちたように目がしっかりと開き、枝を動かして、葉をガサガサと揺らしていた。
「やっぱり魔物なだけあって、枝を自由自在に操れるみたいだ」
トレントの爺さんは、久しぶりに枝を動かしたのか、体の感覚を確かめているように見える。
そういった仕草は、人とあまり変わらないのかもしれない。
老いた体に変化が見られない分、枝を動かす元気な姿が見られただけでも、俺は胸をなでおろすことができた。
これで一件落着だなと安堵していると、トレントの爺さんがこっちに枝を近づけてくる。
「魔物にも握手の文化がある、わけがないよな。……ん?」
トレントの爺さんが差し出してきた枝に違和感を覚えた俺は、それをしっかりと凝視する。
すると、早送りしているかのように枝が成長して、いくつもの葉が茂り始めた。
「おおーっ。葉や枝の成長を自由自在に操れる能力があるのか」
「きゅーっ!」
トレントの爺さんの力に感心したのも束の間、すぐに一つの実が生成され、真っ赤に成長していく。
地球でも見たことがある果物、リンゴである。
トレントの爺さんは言葉を発しないが、その表情を見れば、栄養剤の礼として差し出してくれたと推測することができた。
せっかく俺のために実らせてくれたんだから、受け取らないという選択肢はない。
ましてや、リンゴという貴重な栄養源は、俺の抱える食料問題に大きな希望を見いだしてくれる。
トレントの爺さんを栄養剤で助けたように、俺もこのリンゴで助けられているような気がした。
「このリンゴはありがたく受け取っておくよ。でも、あまり無理はしないでくれ。まだ栄養剤をあげたばかりだからな」
「……」
ニッコリと笑ったトレントの爺さんは、思っている以上に元気を取り戻したのか、すぐにポンポンポンッといくつものリンゴを実らせてくれた。
持っていけ、と言わんばかりに枝をグイグイと押しつけてくるので、それもありがたく受け取ることにする。
年寄り扱いしなくてもいい、という意思表示なのかもしれない。
俺も厳しい環境下で生活していることには変わりないから、ここは持ちつ持たれつの精神でやっていくとしよう。
「もしかしたら、この山には種別の違う魔物たちが共存するためルールがあるのかもしれない」
外敵を倒す軍隊蜂と、花の世話をするウサ太、そして、果実を分け与えてくれるトレントの爺さん。
みんなで協力することで、この山の治安を維持して、平穏な生活を送っているんだと思った。
俺もその仲間に入れてもらい、自分の居場所を作らせてもらうとしよう。
そんなことを考えながら、トレントの爺さんからもらったリンゴを両手で抱えて、ウサ太と共に拠点へ戻っていくのであった。
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