第2章 ─訪問者②─


 ドアが開き、見知らぬ男。

 

 マスターは、店内に入って来た男を見て、


「あっ、すみませんがもう……」マスターが言いかけると……


「スパイスカレー、一つ」男は、そう言ってカウンター席に座る。


「えっ?」困惑していると、


「スパイスカレーをお願いします」男は改めて言う。



 男の名前は、『京ジ』。



「スパイスカレー、やってないんですけど……」


「えっ? マスターこだわりのスパイスカレー、無いんですか?」



──何を言っているのだ。この男は。


「無いですね。ちなみに喫茶店あるあるの、美味いナポリタンも無いです。パンすら焼いてないです」コーヒー中心のドリンク類だけだと、丁寧に説明する。



「作っていただく事は……」京ジが食い下がる。


「作らないですね! 店の中がスパイシーになるでしょうからね!」マスターは強めに言った!




 それもそうだ、本来ならさっさと店を閉めて帰るつもりだったから。語気も強くなる!


 妙な客の訪問にイライラし始めていた。しかし、京ジは落ち着いた顔で、店内を見回し帰る素振りを見せない。



「スパイスカレー、嫌いなんですか?」京ジがまた煽る。



──なんだこいつは! さらにイラつく。



「いや、好きとか嫌いぢゃなくてね…… そもそも今日はもう、店を閉めるつもりでさぁ…… なんか、やだなぁ、あんた…… 嫌だぁ」



♪カランコロンカラン



 また、レトロなドアベルが店内に響く。


 マスターと京ジは、ドアの方に目を向ける。


 現れたのは若い女性。キョロキョロと店内を見回して女性は、

「今日は、何のライブやってるんですか?」彼女は問いかける。


「らいぶ?」マスターはキョトンとする。


「バンドですか? お笑いですか?」嬉しそうに聞いてくる女性の名は、マー美。


「どういう事ですか?」マスターは、訳が分からず尋ねる。


「えっ? ライブやってないんですか? フェスは?」マー美は、推しのバンドや芸人の名前を並べだすが、もう、どうしていいか分からない。



 マスターは、助けを求めようと京ジを見ると、彼はメニューを見ていた。


 京ジからメニューを乱暴に奪って、


「見ないでいいから! 何も出さないから!」


「ワンドリンク、アイスコーヒーで!」マー美が、元気よく注文する。


「ぼくも。あと、スパイスカレー!」京ジ。


 マスターは思わず、メニューで京ジの頭を叩いていた!



「えっ! これ? もうコント始まってたんだ!」二人のやり取りを見て、マー美がはしゃぐ。




 マスターは、帰りたくてたまらないのに、謎の時間に巻き込まれて泣きたくなっていた。


 京ジは、また壁のメニューを見ている。マー美は、マスターと京ジのコントをみようと、興味津々で二人を見つめ展開を待っている。




 マスターは、

──あぁ…… 帰りたい……

 

 帰って早く横になりたい。そう思った。


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