Letter from Terminal

エアポート快特

ターミナルからの手紙

……ここは、どこだ?

少年は、気がついたら電車に揺られていた。

外を眺めると、一面が夕陽に照らされた田んぼと湖だった。

その幻想的な風景は、少年に不気味さを与えたが、しかしながら納得がいく安堵も同時に与えられていた。


少年が外の風景を見ながら余韻に浸っていると、やがて電車が減速を始めた。

今まで静かだったモーター音が、降りろ降りろと言わんばかりに騒ぎ出す。

「……終点だ」

車内アナウンスなどはどこにもなかったが、少年はここが終点で、電車はどこにも行かないということを何故か悟った。


電車のドアが開いた。

小さな橋上駅だったが、設備はコンクリートでできている。

周りの夕陽に照らされた田園風景と噛み合って、まさにこの世のものではないような場所になっていた。

少年はこの駅が好きになった。


しばらく電車が動くのを待った。

しかし、動き出す気配はなかったので、少年は階段を上がり改札へ向かった。

階段を登るとき、少年は体が雲のように軽くなるのを感じた。

階段を登りきり、しばらく廊下を歩くと改札が見えてきた。

改札のところに、駅員らしき人が立っていた。

「ようこそ、ターミナルへ」

駅員は笑顔で、一言そう言った。

少年は、少し顔を歪めた。

「俺は……」

少年が出したい言葉は、彼の喉の奥に突っかかって出てこない。

「俺は……」

「〇☓※さん、あなたは残念ながら亡くなりました」

少年の顔は一瞬更に歪んだが、すぐにもとの顔に戻った。

自分が死んだことに対して、今更驚けなかったのだ。

「……妹は、母は、父は無事ですか?」

すると、駅員はそばにある鏡を指さした。

鏡を凝視していると、その向こうで少年の父は仕事に行き、少年の妹は学校に行っている。

「そうか、そうなんだ……」

少年は、表情を動かさなかった。

動かせなかったのほうが正しいかもしれない。

ふと、改札の向こうにある大きな窓の外に、一羽の鶴がいた。

「手紙を書きますか?」

「えっ?」

駅員は、一枚の便箋を少年に差し出した。

「あと、ペンも必要ですね」

「消しゴムは?」

「あなたに、消しゴムは必要ないですよ」

駅員は、笑ったままだった。

少年は、すぐそばに小さな机と椅子を見つけた。

「どうぞ」

そう言って、駅員は駅長室に入っていってしまった。


椅子に座って、紙とペンを机の上に置く。

何を書こう。

少年は一瞬だけ悩んだ。

そして、笑った。

少年は、ペンを持ち、紙が全部埋まるまで書いた。

途中から涙が溢れてきた。

今までのことが、走馬灯のごとく蘇ってくる。

楽しかった旅行、怒られた思い出、美味しかったご飯。

何より浮かんだのは、家族の顔だった。

「ちくしょう……ちくしょうちくしょうちくしょう!」

やがて手紙を書き終えた。

すぐ後ろには、さっきの駅員が立っていた。


「ここに、手紙を置けばいいんですか?」

「はい」

これで、終わるんだ。

終わってしまうんだ。

それが嫌だと思いつつ、手紙を地面にそっとおく。

すると、手紙が宝石のごとく輝き出した。

「眩しっ!?」

次に、少年が目を開けたとき、そこにいたのは2羽の美しい鶴だった。

鶴は、じっと少年を見つめている。

「ふはっ!」

少年は笑ってしまった。

やがて、2羽の鶴は大きな羽を広げて並んで空に羽ばたいた。

少年は、笑いながら涙が出てきた。

「ちゃんと届けてくれよ! じゃあなー!」

鶴が羽ばたいた空に、少年は大きな声で叫んだ。

彼の人生では叫んだことがないくらい、大きな声だった。

やがて、少年は泣きながら後ろを振り返った。

そこには、さっきの駅員どころか、あの大きな橋上駅すら無くなっていた。

代わりにいたのは、彼の母だった。

「おつかれ、〇☓※」

少年は、母の方へ向かって、全力で走った。

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