心の叫び

オオバ

誰かの心の叫び

 

 今日もまた僕は人の悪意に触れた。

 本当はそれを悪意と形容して良いのかは分からないけれど、僕の感性から言えば、それは悪意だ。

 本人に悪意がないとしたら、それは非常に悪質だ。

 でもそれはその人だけのせいじゃない、周りが、世界が、全てが悪いんだと思う。

 全てが憎く、全ては敵だ。

 

 ああ、明日ぽっくりそのまま死んでしまえたら。

 

 そう切に思ったんだ。でもこれは優しさなんかじゃない。

 なのに少しでも自分を優しいと勘違いした自分が大嫌いだ。

 だけど、世界が滅んでしまえばいい、だなんて思わない自分は褒めてやりたい。きっとここに自分の良さが詰まっている。でも、僕からすればこれはデメリットにしかならない。

 思うが故に、苦しみ、自分を傷つけ、いつも吐きそうになる。そんな感情を上手く管理できず、遂には自身が大切だと思っている身近な人間に、それを吐き出して傷つけてしまう。

 

 本当の正しさなんて、はなっからこの世界には存在しないんだって、そう叫んでしまえるくらいには思ってる。

 

 電車の音はとても心地がいい。そう思うのは一瞬で死ねるって期待するからなんだと思う。その死には多くの人間への迷惑が含まれているのに、それを意に介さないのは、死んだら楽になれるって本気で思っているからだ。

 死んでしまえば、楽しい事も、嬉しい事も、未来も無くなる。でもそれ以上に苦しみも無くなるんだ。

 

 ふと、自分の目から涙が零れ落ちて行った事に気づく。

 一体これは何の為の涙なんだろう?

 自分の不甲斐なさか? 自分よりも苦しんでいる人間への哀れみか? それとも、人生なんて言うゴールも見えなければ、休憩場所もないマラソンへの理不尽に対してか?

 

 もし神様が本当に居るとしたら、救い様のないクズか、人間に失望して何処かへ責任を捨てて逃げたんだと思う。

 どちらにしても、僕は神様に言ってあげたい。死ね、と。

 その死を持って、全ての人間の苦しみを、全てを無に帰して欲しい。最初から無かった事にして欲しい。

 

 知りたくなかった、生きる意味を知りたくなかった。

 親の温もりを、友の大切さを、想い人の笑顔を。

 ここまで生きたから、もうがんじがらめなんだよ。苦しくても終われないんだよ。

 

 明日に怯えて、人に怯えて、悪意に怯えて、そんな自分が嫌になって、悲しくて、涙して、吐いて。

 でも死んでしまったら、心の内の苦しみを誰かに渡す事になる。

 たとえ、道に咲く雑草の花だとしても、潰れているのを見て心を痛ませる者がいる様に、人の死は必ず何処かで誰かの心を酷く蝕ませる。僕はもうそれも知ってしまった。

 

 人は思いやるからこそ傷ついて、思いやるからこそ立ち上がれる。自分だけだったらどれだけ楽だっただろう。

 でも知ってしまったなら、もう独りでは生きていけない。

 心に住み着いた人は、何があったって消えてはくれない。

 

 だから僕の心が死なない為には必要なんだ。

 理由が、人が、君のせいだって言える相手が。

 

 きっといちいち立ち止まってしまうのはこんな僕でも、まだ自分の心が生きたがっているからなんだ。いつか描いた夢、この世界に生きた証を遺して、更には世界を少しでも生きやすい世界にしたい。そんな荒唐無稽な夢を本気で抱いているからなんだ。

 

 だけど、奇跡が起こってそんな世界が出来たとして、その頃には僕は死んでしまっているだろう。でも次世代以降の子供達はそこを、舗装された道を歩いて行ける。

 

 どうせ最後はみんな死ぬ、だから抗いきって死ね。

 神様がダメなら、足掻いて足掻いて、自分すら捨ててみせろ。

 そこには善悪なんて者は飾りでしかない。信じられるのは自分と身近な人だけなんだ。

 過去は振り返る物であって歩いていく方向じゃない。

 

 昨日の自分も、明日の自分も、今日の自分だって上手く歩けているか、心配になるけれど、怖がる事は間違いなんかじゃない。

 捨てきれない迷いこそが、抗うべき最大の敵であり、道標なんだ。

 

 こんな時には、身近な人に聞いてみよう。自分は正しいのかを、間違っていないのかを。

 そうして聞かれた時には、こう答えてあげたい。

 君は間違ってなんかいない。全ては無駄なんかじゃない。

 苦しんで流した涙は、大地を潤して、誰かの糧になる。

 

 優しさこそ、疫病の様に伝染して行く物だ。誰かが踏み出して、歩き続けるならいつかは苦しむ人間なんて居なくなる。

 だって、正しさなんてないんだから、人は自分を救うべきなんだ。好きに人を救えばいい、好きに人を助ければいい。

 また明日って笑える様になっていいんだよ。

 

「だから、君に会えるのはまたいつかにする。きっとその時の僕は年老いてヨボヨボだろうから、あの頃のままの君には心配されてしまうかな?」

 

 僕は一息に、唾と感情を飲み込んだ。

 

「でもそれは君のせいなんだよ。君の大きかった背中は僕に折れる事を許してはくれないんだ。僕が覚えている君に恥をかかせない為には、僕がその背中に近づいて行かなきゃ行けない。」

 

 想いは毒の様に心を酷く、美しく、蝕んで、僕の手を掴んで明日へと連れていく。

 

「ありがとう。僕の1番大事で、愛しく美しい記憶達。」

 

 心の中に住み着いて離れない君は、また明日ってあの日と寸分違わない笑顔で言ってくれるんだ。

 だから、僕は笑って言った。

 

「またいつか」

 

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