ハーフ&ハーフ4~関川さんと文通しよう~

出っぱなし

一通目往信 異世界からの手紙

 ここはとある郵便局、どこにでも存在しどこにも存在しない、いつからに建っていたのかすら誰も知らない。

 どこかの街角はたまた人里離れた山の中、古今東西、人のいや人ですらないモノたちが住む場所ですら、誰かの目の端にひっそりと佇んでいる。


 そんな摩訶不思議な郵便局には曰く付きの手紙が集められる。

 今回の手紙もまた、そんな曰く付きの一通であった。


 郵便局長の無数の触手によって仕分けされ、黒いローブを纏った配達員たちは担当地区への手紙をそれぞれ受け取る。

 そして、配達員たちはふよふよと虚空を舞い、次元の扉ゲートをくぐり消えていく。


 届けられた手紙はどんなドラマを綴っていたのだろうか?


🍷🍷🍷


 青木部長




 拝啓




 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。突然のお手紙にて驚かれたことと思いますが、なにとぞご容赦ください。




 まずはこの度の無断欠勤と、返信が遅くなりましたこと、決算前の多忙な時期、なにより部長には大変なご迷惑をおかけしたこと、心より深くお詫び申し上げます。




 私の携帯電話に部長よりおびただしい着信があったことはもちろん承知しておりました。それに対して返信できなかったことは故意ではなく、ひとえに私のおかれている環境のせいです。




 信じられないかもしれませんが、私は今『異世界』というところに来ております。




 その日の夜、十日以上続いた深夜残業で終電を逃した私は、徒歩にて帰途についておりました。その途中、車道の真ん中で震えている子猫を見つけたのです。私はかつて猫と暮らしていたこともあり、どうしても見て見ぬふりはできませんでした。そしてその子猫を助けようとしたところを、トラックにはねられたようなのです。




 気づいたときには『異世界』にきておりました。そこは現代日本とはまるで違う、中世ヨーロッパのような世界です。




 剣と魔法の織り成す世界に、最初こそ戸惑いましたが、私には趣味のゲーム知識がありました。今では仲間も増え、魔王討伐に欠かせないメンバーの一人として、せわしなくも充実した日々を送っております。




 いつそちらの世界に戻れるのか分からないので、もうしばらくこちらの世界で頑張ってみようと思います。




 部長には大変お世話になりましたが、私の現状をご理解いただければ幸いです。無事に暮らしておりますので、これ以上の心配も御連絡も無用と存じます。




 またまことに勝手ながら、このまま会社にご迷惑をおかけするのも心苦しく、私のことは気にせず退職の手続きを進めてください。




 最後になりますが、部長と会社のますますのご発展を祈念し、お別れの御挨拶とさせていただきます。



 敬具


 騰帝歴072年潮ノ月19日 大魔道士・関川フタヒロ






 ~ この手紙の返信は後半に…… ~

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