第130話


 その日からリナリーは、少し態度が柔らかくなりました。


 憎悪とある程度折り合いをつけたみたいで、ピリピリした危うい雰囲気は霧散していました。


「トウリ衛生准尉。伝令です」

「はい、ご苦労様です。なんでしょう」


 彼女の態度が柔らかくなって、いくつか気が付いた事があります。


 リナリーは表情が乏しく感情の分かりにくい娘ですが、そのご機嫌は声の高さに出るようです。


 今日の彼女はいつもより澄んだ目で、半音階ほど高い声色で話しかけてきました。


「明日の正午を以て、トウリ様は衛生准尉から衛生曹に降格となります。期日までに階級章を返却し、衛生曹の辞令を受け取ってください」

「了解しました、リナリー2等通信兵」


 リナリーは淡々と、自分が降格になる事を教えてくれました。


 待ちに待った朗報に、自分は安堵の息を吐きました。


「今は仕事中なので、明日の朝にでも提出に伺います」

「分かりました、そう事務方に伝えておきます」


 一つ、大きな肩の荷が下りた気持ちです。


 結構、この衛生准尉という肩書で実害が出る事も多かったのです。





 尉官というのは、前線では最高権力者の持つ階級です。


 衛生部長とか大隊長級の、たくさん人を束ねている人の肩書です。



 今のオースティンの階級を簡単に説明しますと、もちろん将官が一番偉いのですが……貴族の世襲制なので事実上おかざり役職です。


 彼等は前線指揮官アンリ大佐に指揮権を預けていますので、実質的に権力を持っていません。


 なので今、オースティン軍の最高司令官は元南軍の司令官だったアンリ大佐です。


 その下にレンヴェル中佐、ヴェルディ少佐やベルン少佐と続く感じです。


 そして基本的に佐官は、命の危険がある前線に足を運びません。


 彼らは軍を動かす中枢の人材なので、万が一が有ってはいけないのです。


 現にヴェルディさんも、ずっと後方司令部で書類仕事をしています。


 なので、前線での最高権力者は尉官になります。


 5万人と言われる現オースティン軍兵士のうち、准尉以上の人は100名に満ちません。


 そんな選ばれし地位に、何故か士官学校すら出ていない従軍三年目の自分が居座っているのです。どう考えてもおかしいです。



 そして何より、普段の診療業務に実害が出ているのが問題です。


 自分が診察すると、階級章を見た患者の脈が早くなるので結構迷惑です。本当に痛いのか判断がしにくくなります。


 それに、


『なんだ子供兵かよ。他の衛生兵は居ないのか、まったく』

『すみません、人手不足で』

『嬢ちゃん、生理はもう来てるのか。今度俺が相手してやろうか』

『はあ。……すみません、触らないで頂けますか』


 と、こんなぶしつけな輩は前々から結構いたのですが。


『げっ!? 准尉殿でしたか!?』

『ええ、まあ一応……』


 そんな彼等は自分の階級章に気づいた瞬間、顔を真っ青にして土下座し始めるようになりました。


 仕事をやりにくいったら仕方ありません。謝るなら最初から下品な冗談を飛ばすなと思います。


『す、すまんかった。いや、その、てっきり二等兵くらいかと』

『気にしていませんので、早く患部を見せてください』

『あ、ああ。いや、その、すみませんでした』


 時間をおいて再度謝りに来たり、動揺のあまり血圧が下がって失神した人までいました。


 とはいえ階級章を付けていないと身分を疑われるので、外すわけにはいかず。


 自分はこの高すぎる地位に、ずっと辟易していたのです。


「随分と嬉しそうですね、降格になるのに」

「自分は地位なんて求めてませんからね。求めるのは、戦争の終結と平穏な暮らしです」

「……立派な願いをお持ちですね」


 その降格の知らせをウキウキと聞く自分に、リナリーは変な顔をしていました。


 自分の目的は、お金をためてセドル君の下に帰る事。


 権力を握る事に、欠片の興味もないのです。


「リナリーは、戦争が終わって欲しくないのですか」

「それは。できれば、私が銃を撃てるようになるまで続いて欲しいものですが」

「……」

「ですが、早く終わるならそれに越したことは無いのでしょうね」


 リナリーはそう言うと、遠く前線の方をぼんやり見つめました。


 彼女は今年で14歳。歩兵になるためには、後1年必要です。


 このままいけば1年後には、きっと戦争は終わっているでしょう。


「もし戦争が終わったら、どうします」

「……そう言えば、考えたこともありませんでした」

「良ければ、自分の住む村に来ませんか。サバトの経済特区に、知り合いがいるのです」

「サバトですか? ……うーん、ロド兄さんを殺したサバト人と一緒に住むのはちょっと」


 戦後、リナリーに一緒に住まないか誘ってみたら、渋い顔をされました。


 同盟を締結したとはいえ、まだまだオースティン人はサバトに対する悪感情が大きいのでしょう。


「良ければ、考えてみて下さい。とても良い人達ですよ」

「……ええ」

「義理とはいえ、自分達は姉妹なのですから」

「う……」


 少し勇気を出して『姉妹』を強調してみたら、リナリーは凄く微妙な顔をしました。


 やはり見知らぬ自分に、姉妹扱いされたくないのでしょうか。


 そう思って溜息を吐くと、彼女はおずおずと自分に頭を下げました。


「その、トウリ衛生准尉。先日、とても失礼な口を利いてしまいました。謝罪します」

「……ああ。その件を気にしていたのですか」


 そう言えばこの間、結構失礼な口を利かれましたね。


 リナリーの気持ちは理解できたので、あまり気にしてはいないのですが。


「あの時はその、少し周囲が見えていませんでした。……反省しておりますので、どうかご容赦を」

「気にしていませんよ。普段面倒を見ている患者さんの方が、よほど下品で無礼な人ばかりです」

「それもどうかと思いますが」


 出来るだけ優しい顔で気にしていないと言ってみたのですが、リナリーは恐縮するだけでした。


 こういう時も、階級差は不便ですね。同期とか同い年なら、もうちょっとフランクに話が出来るものですが。


「それで、その。トウリ衛生准尉」

「はい、何でしょう」

「その、私、実は……」


 何故かカチカチに固まったリナリーは、一拍を置いて息を吐き、おずおずと話しかけてきました。


 何か、言いにくい事でもあるのでしょうか。



「実は、私トウリ准尉に────」

「あ、見つけた」



 そして、彼女が何かを言おうとした、その瞬間。


 空気が読めない男の野太い声が、自分達の会話に割って入りました。


「探したぞ、ちっこくて見つけにくいんだよお前」

「え、自分ですか」


 その男は、自分達の会話に割って入った事を気にも留めず。


 目を真ん丸にするリナリーを尻目にずんずん近づいてきて、自分の前に立ちふさがりました。


「トウリ、お前に話が有ってきた」

「あの、先にリナリーと会話をしていたのですが……」

「知らん、通信兵なんぞ待たせておけ。俺の用事が優先だ」


 唖然としているリナリーを押しのけ、無遠慮に自分に絡んできたその男は、


「……それで、何か御用ですか。ガヴェル曹長」


 先日、ヴェルディさんの件で宣戦布告を受けた因縁の?相手。


 輸送部隊の小隊長、ガヴェル曹長なのでした。



「ちょっと待ってろ、今から書類を出す」

「了解しました。……輸送部隊なのに、まだ前線に残ってらっしゃったのですね」

「ああ。前の闘いの功績も評価され、我がガヴェル輸送部隊は100人規模の中隊になった。その編成に時間がかかったんだ」

「それはおめでとうございます」

「まだ後方に敵がいるからだろうけどな。俺ら以外の輸送部隊も、何度か賊に襲われてたらしい。だから護衛を増やすって話だ」


 ガヴェル曹長は相変わらずな態度で話しかけてきました。


 まぁ、オースティン国内の治安は相当悪いでしょうからね。


 食料目当てに輸送部隊を襲う賊が居てもおかしくはないでしょう。


「それで、自分に用というのは」

「いい話だ、お前に縁談を持ってきた。レンヴェル爺ちゃんからのご厚意だ」

「はい?」

「好きな相手を選べ」


 そう言うとガヴェル曹長は、自分に1枚の名簿を差し出しました。


 そこには見覚えのない兵士の名前と階級が、記されていました。


「爺ちゃん曰く、衛生曹に降格させる代わりに良縁を提供してやるんだと。今、特定の相手はいないんだろう?」

「……」

「ここから選んでおけ。この名簿は俺の親族で、エリート将校ばかりだ。お前の相手としちゃ勿体ない人しかいない」


 その急すぎるガヴェル曹長の話に、自分は目が点になりました。


 ……縁談? 自分が、結婚ですか?


「その。自分はもう、結婚した後で」

「その辺の経緯は聞いてるよ。でも、どうせ数年空けて次の相手見つけるんだろ? だったら今、良い相手を選んどけ」


 そのガヴェル曹長の態度は、デリカシーの欠片もないというか。


 『良い話を持って来てやったから喜べよ』という態度を隠そうともしませんでした。


 ……この辺の感覚は、まだお子様なんでしょうね。


「嫌ならそれでいい。この話はナシだ」

「はあ。では、それで構いません」

「え、断るのか?」


 呆れる気持ちを隠しつつ断ったら、ガヴェル曹長は驚いて目を見開きました。


 ……喜んで飛びつくと思っていたのでしょうか。


「ジーヴェ兄さんは中尉だし、アルヴェリーは去年の士官学校首席だぞ。こんな凄い縁談、もう二度とねぇだろうに」

「……レンヴェル中佐に、ご厚意は感謝しますとお伝えください。ですが自分は生涯、ロドリー君以外と婚姻を結ぶつもりはありませんので」

「あー。本当に良いんだな? 後からやっぱりって懇願しても聞かねえからな」


 自分はガヴェル曹長に苦笑しつつ、なるべくやんわり断りました。


 恐らくレンヴェルさんは、本当にご厚意でこの話を持って来てくれたのでしょう。


 そしてガヴェル曹長も空気が読めていないだけで、悪気がある感じはしません。


 ……というか、よく見たらガヴェル曹長の名前も載ってますね。しれっと手で隠していたようですが。


「自分は終戦後、職を辞すつもりですので軍人との縁談はお受けできません」

「え、お前志願兵だろ。衛生曹にまでなってるのに、軍辞めるのか」

「……ええ。戦争が終わったら、静かに町癒者として暮らしたいと思っています」

「とことん勿体ねぇ奴だなお前」


 もともと自分が志願したのは、孤児院に援助が出来るからです。


 ……ノエルの村が焼け落ちた以上、もう自分が軍にいる意味はありません。


 今自分が戦場にいる理由はケイルさんやヴェルディさんなどに対する義理と、セドル君を育てる資金稼ぎです。


「戦争に勝ったら、俺たちの地位は保証される。一生安泰だぞ」

「そうかもしれませんね」

「まぁ、お前の好きにすりゃあいいが。やれやれ、とんだ無駄足になっちまった」


 ガヴェル曹長はため息をついて、差し出した書類を丸めてポケットに入れました。


 これで彼の要件は終わりの様です。


「じゃあな、話を割ってすまんかったな」

「それでは。すみませんリナリー、お待たせしました」


 突然の話で少し驚きましたが、実害は無いので良かったです。


 自分はガヴェル曹長にあいまいに会釈した後、改めてリナリーに向き直りました。


 先ほどの話の続きをしようと。


「……」

「え、リナリー。どうしましたか」


 しかし彼女は、自分の方を見ようともせず。


 とても険しい顔色で、ガヴェル曹長をにらみつけていました。



「あ? 何だ通信兵」

「……」



 そのリナリーの睨みに気が付いたようで、ガヴェル曹長は不快そうにリナリーに向き直りました。


 自分より背の高い相手に見下ろされたのに、リナリーは一切態度を変えません。


「……別に」


 そう答えるリナリーの声は、トーンが下がっていました。


 明らかに、さっきより不機嫌になっています。


 そんなに話に割りこまれたのが腹立たしかったのでしょうか。


「言いたいことがあるなら言えよ」

「言ってよろしいのでしょうか」


 自分は何とかリナリーを宥めようとしましたが、それより先にガヴェル曹長が彼女に絡んでしまいました。


 不良同士のメンチの切り合いみたいな感じになっています。


「失礼を承知で申し上げるなら、トウリ衛生准尉の降格は明日正午です。それまでトウリ様は准尉なのに、その態度口調はどうなのかと新米なりに疑問を感じたところです」

「あ?」


 自分が口を挟む暇もなく、開口一番でリナリーはガヴェル曹長に喧嘩を売りました。


 どうしてこう、喧嘩っ早いんですかこの兄妹は。


「この女は士官学校すら出ていない志願組だぞ? 准尉なのがおかしいんだ、もっと下の階級がふさわしい」

「失礼、私は新米なのでわからないことだらけでして。成程、上官であろうと下の階級がふさわしいような人には舐めた口をきいても構わないのですね」

「コイツが特別なだけだよ。なんだお前、面倒くさい絡み方してくんな」


 そのリナリーの剣幕にあたふたしている間に、彼女の口調はヒートアップしていきました。


 ……早く仲裁しないと、ややこしい事になりそうです。


「大丈夫です、リナリー。自分の方が『もうすぐ階級が下がるので別に敬語は使わなくていい』とガヴェル曹長に申し上げていたので」

「だとしても、上官と部下の区別は厳格であるべきです。この前トウリ准尉自身が、そうお話ししてくれたではないですか」

「それは、そうですけど」

「そもそも上から目線で縁談を持ってきて、あの言い草。トウリ准尉に失礼にもほどがあるでしょう」


 リナリーはとげとげしくそう言うと、ガヴェル曹長に睨み続けました。


 自分の為に怒ってくれていたのですか、この娘は。


「自分は気にしていませんから。一度落ち着いてくださいリナリー」

「……ですけど」

「もう話は良いか? 俺も忙しい中、わざわざこの女の為に時間を見つけて来てやったんだ。何で文句言われなきゃなんねぇんだ」


 そんなリナリーの態度に気を悪くしたのか、ガヴェル曹長は舌打ちして身を翻し、


「お前の顔、覚えたからな通信兵。次、変な絡み方したら懲罰牢にぶち込んでやるぞ」


 そうリナリーを脅して、プリプリ怒って立ち去ってしまいました。




「駄目ですよリナリー。上官に無駄に食って掛かってはいけません」

「ですが、あの男の態度は……!」

「だとしても、です。戦場の上官なんて、理不尽で横暴なものです」


 ガヴェル曹長の言い草に、自分はほんのり冷や汗をかきました。


 確かに今のリナリーの態度は、懲罰の対象とされても文句は言えません。


 彼にはそれを実行するだけの権力があるのです。


「リナリー。ガヴェル曹長がそうと限りませんが、女性兵士に懲罰と称して猥褻な事をしてくる兵士もいるのです。無駄に逆らって、大義名分を与えてはいけません」

「そんな事、許されるんですか!」

「軍では、階級がある人が全てです。……そうなった場合、自分ではリナリーを庇いきれません」


 もしガヴェル曹長にリナリーを懲罰牢に連れていかれたとしても、自分の権力ではどうする事も出来ません。


 ヴェルディさんに頼み込んでとりなして貰うことは出来るでしょうけど……、忙しい彼の手をこれ以上煩わせたくはありません。


「女性で兵士を志すなら、隙を見せてはいけないのです」

「……」

「自分の為に怒ってくれたのは嬉しいのですが、なるべく目上の人には逆らわないようにしましょうね」


 そう言ってリナリーを諭すと、彼女は頬を膨らましつつも「了解です」と答えました。


 納得いっていないと、顔に書かれています。まだまだリナリーは若いですね。


 後で自分からも、ガヴェル曹長にお詫びしておきましょう。


「その、私も気が動転していまして。先程、トウリ准尉に言おうとしたことが、その」

「ああ。そう言えば、何の話だったのですか」

「……。それが、その。大変失礼なのですけど」


 彼女は少しすねたような顔になったあと、おずおず話を続けました。


 そのリナリーが、先程言いかけた話の内容とは、


「あんな物言いをして、何ですが。義姉あねと呼んでもよろしいですか、と聞きたかったのです」

「……!」


 まさかの、義妹宣言でした。


「ええ、ええ。もちろん喜んで!」

「そ、その。トウリ准尉にはとても感謝しているんです。忘れてはいけなかった、大切な事を思い出させてもらえました。それで」

「リナリーさん」


 その言葉を聞いた直後、自分は感極まってリナリーを抱きしめていました。


 天にも舞い上がりそうな、そんな心地でした。


「リナリーさん。自分は、今まで家族が居なくて。孤児院で過ごした幼馴染たちも、みんな死んでしまって」

「は、はあ」

「凄く、嬉しいです。リナリーさん」


 自分が想像以上に喜んだので、リナリーは少し動揺している様子でした。


 ですがこんなに嬉しい事は、そうありません。


「これからは自分に何でも頼ってください。義姉あねですので」

「は、はあ」


 自分にとって初めてできた、戸籍でつながった明確な家族。


 その存在はどれだけ、自分の心を明るく照らしたでしょうか。



 思えば、ずっと自分は『家族というもの』に飢えていたのでしょう。


 自分が死んでも、誰も悲しまない。戦争が終わっても、待ってくれている人もいない。


 そんな自分の境遇に、少なからず思い悩んでいたのです。


 だからセドル君を必死で守りましたし、リナリーにも付き纏いました。


「ではよろしくお願いします。義姉ねえさん」

「ええ」


 だから自分は、少し照れ顔でそう言ってくれたリナリーに、この上なく舞い上がったのです。




 この時は、まさに幸せの絶頂でした。


 戦争は間もなく終わり、平和な時代がやってくる。


 その平和な時代を、リナリーやセドル君と共に生きていく。


 そんな未来を、夢想しました。



 この時フラメールはどうしようもなく詰んでいて、オースティンはほぼ確定的な勝勢で。


 余程のことが無い限り、どんな無能な指揮官がオースティンを指揮しても負けは無かったと思われます。


 ましてや、今オースティンを指揮しているのは百戦錬磨のレンヴェル中佐。その幕下には稀代の参謀ベルン・ヴァロウ。


 ……普通に考えて、負ける筈が無いのです。



 たった一つ、誤算があったとすれば。


 たった一人、見逃してはいけない人を見逃していた事でしょうか。



 それは、今年の夏ごろ。ある小軍が、ボロボロになって連合側に駆け込んできていました。


 その軍の兵力は、たった2000名。


 祖国で権力争いに敗れ、ボロボロの状況で逃げ出した敗残兵。


 そう。シルフ・ノーヴァの率いる旧サバト政府軍が、連合側に合流していたのです。



 彼女は今のフラメールの戦況を知った後、自信満々にこう言ってのけました。


 私に軍の全権を預ければ、オースティンを壊滅させてやると。



 そんな少女の妄言は却下され、彼女は連合に付き従う1部隊として追従する事になりました。


 いきなりやってきた外様の、それも敗走してきた参謀少女のいう事など、信用されるはずもないでしょう。


 ……シルフ自身もそれは承知の上で、敢えて最初に大言壮語を吐いたようです。


 今後、彼女が自らの価値を示した時に、要求が通りやすくなるように。



 そして非常に迂闊な事に────


 このサバト旧政府軍の存在を、オースティンの誰も察知していませんでした。


 シルフが周到だったのか、オースティンの偵察兵がサボったのかは分かりませんが、彼女は我々に気付かれることなくフラメール・エイリスに合流していたのです。



 戦争の沼が再び、邪悪な牙を研ぎ始めました。

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