Episode00

12年前の年の春。

大好きな幼馴染で、お隣さんのりんちゃんが、イギリスに引っ越していった。


当時はろくに物事が分からないくらいの子供だったけれど、それでもりんちゃんが遠いところへ行ってしまうことは感じ取ったのだろう。

りんちゃんの引っ越しを知った日から、毎晩のように布団の中でわんわん泣いていたことは、断片的ではあるものの今でも覚えている。


りんちゃんは、薄い茶色のやわらかでふわふわの髪、きらきら輝く大きな宝石のような瞳、色素の薄い白い肌で、静かに座っていたらまるで人形かと思ってしまうくらいきれいな子だった。

わたしより頭半分くらい小さくて、おばけや暗いところが苦手で泣き虫で。

マンションのそばの家で飼っている大きい犬が怖くて、一人ではその家の前を歩けないような気弱な子。

けれど本当は、誰よりも戦隊物やヒーローに憧れる男の子だった。


りんちゃんの家の隣に住む私は、料理人としてレストランを営む父親、バリバリのキャリアウーマンとして働き空手を特技とする母親、それから個性豊かな3人の兄に囲まれて育った。

洋服は兄たちのお下がりのズボンばかりで、「長いのは邪魔だから」とショートヘアが定番。

大して可愛いわけでもなく、かといって不細工なわけでもなく、世にいう“普通”を人間にしたような私は、普段の格好や兄たちに影響を受けた話し方、いつもどこかしらに貼っていた絆創膏のせいで、男の子と勘違いされることがしばしばだった。

それでも本当は絵本で見るお姫様に憧れたり、レースや可愛い模様のついたスカートを着てみたいと思う女の子だった。


私とりんちゃんがどうして仲良くなったのか、はっきりとしたきっかけは思い出せない。

もしかしたらきっかけなんてなかったのかもしれない。

それでも私たちは、保育園にいるときも、家に帰ってからも、何をするにも一緒だった。

私にとって、りんちゃんと過ごした日々は今でも大切な思い出だ。


そのりんちゃんが、


「水無瀬 凛です、よろしく」

「……」


大変身した姿で12年後の今日、日本に帰ってきました。



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