File01-05
「パワーランク、S、だと?」
初めて聞く、自分より上のランクの存在。AAA+ですら奇跡の存在、とも歌われているのに、それを越えるSというのは『在り得ない』とも言われている存在だった。
「お前のマスターは一体どれぐらいの力の持ち主だったんだ……?」
「現在では把握することはできません」
「ああ、わかってる。だが……」
魔力が強ければ強いほど制御することが困難であり、パワーランクがSともなると、魔力を制御できずに身を滅ぼしてしまう。鍛えても、普通の人間でたどり着くことが出来るのはAAAまでである。
そしてドールは、自身を作り出した魔法使いより強力な力を持つことはほとんどない。ストーンを心臓とし、作り出したマスターの魔力を源として活動をする。マスターを超える力を持つドールなど、『在り得ない』。
「在り得ないづくしじゃねーか、お前」
「しかし、私は存在しています」
「ああ、わかってるよ」
頷いたあと、リュウはまたロッドを少女に向けた。それから確認するように少女に質問を始めた。
「……お前は今、誰とも契約していない状態だな?」
「はい」
「なら、俺がお前と契約することも、可能だな」
「はい。ただし、私を制御することが出来る程度の魔力が必要となります」
出来る程度、と言った少女に、リュウは苦笑いを浮かべる。自分自身がどれほどの魔力を持っていて解かっていて言っているのか、それとも解かってないからこそ言えるのか、少女の無表情からそれを判断することは出来ない。しかし、リュウは一度決めたことを変えるつもりはなかった。
「魔術展開、契約魔術発動」
ロッドに挿したカートリッジから、黒い電流のようなものが走る。
「契約者、リュウ・フジカズ。カラーコード、ブラック。パワーランク、AAA+」
リュウは少女にロッドを向ける。少女はしばらく何も言わなかったが、突然、リュウに向かって歩き始めた。
「お前、何を?」
「契約魔術の継続を」
「あ……、ああ……」
質問に答えず、少女はリュウの一歩前ほどに立ち、それから向けられているロッドに触れた。
「対象者認識、コード解析します」
少女が言った瞬間、電流がロッドから少女に向かって走った。ばちばち、という音が響くたび、少女の髪がふわりと浮かぶ。
「契約者、リュウ・フジカズ。カラーコード、ブラック。パワーランク、AAA+。認識完了」
そして、少女の黒い瞳がリュウを見つめる。それは、契約魔術の続きを求めているように見えた。リュウはロッドを握る手に力を込めて、少女に向かって頷いた。
「魔術コード解析」
リュウと少女の足元に、先ほどよりも更に大きな魔法陣が現れた。今まで使ったことのないような強力な魔術を展開しているため、リュウの表情は険しい。
「承認します」
少女はロッドから手を放して、目を閉じて言った。瞬間、少女の体が少しだけ浮き上がり、胸のあたりから黒い魔法陣が現れた。
「……解析開始」
リュウはロッドを一度後ろに降ろし、それから少女の胸のあたりに現れた魔法陣に向かってロッドを強く当てた。バンッ、という強い衝撃音がした後、ロッドからびりびりと黒い電流が走る。リュウはそのまま、ロッドを魔法陣に押し付ける。
そのとき、デュオからの通信が入ってきた。
[リュウ! 五十キロ圏内の避難は完了した! すぐに退避しろ!!]
「まだ、だ……!」
苦しそうに声を絞り出し、リュウはデュオに言う。
「まだ、時間はあるはずだ……!」
[あと十分もない! 早く逃げろ!!]
「こいつ置いて逃げれるか!!」
リュウは怒鳴ってデュオに反発した。歯を食いしばり、ロッドを魔法陣に押し付けている。
「契約コード、入力!!」
「承認します」
再び、びりびりと電流の走る音。その電流は、わずかにリュウに向かっても走っていた。手の痺れを感じながらも、リュウは両手を使ってロッドを少女の魔法陣に押し付ける。すると、少しずつ少女から出ていた魔法陣の形が、リュウの足元に出ている魔法陣の形に変化していった。
「契約コード入力状況は?!」
「現在八十九パーセントです」
「デュオ、後ちょっとで終わる! もう少し待ってろ!!」
リュウはデュオに向かって叫ぶ。その声は、やけに自信に溢れていた。
[必ず戻って来い!! これは、命令だ!]
これ以上は何もいえない、とデュオは通信を切る。リュウは口元に笑みを浮かべ、そして右手でロッドを強く握って、左手で少女の魔法陣に触れた。瞬間、リュウの全身を電流のような痺れが走る。強く感じたのは、少女の魔力だった。
「お前の、名前は何だ?」
「……」
リュウが尋ねると、少女はゆっくりと目を開いた。感情を灯さない瞳で、少女はリュウを見つめる。
「ベリー・オブ・ブラック」
「……認識、完了」
リュウが少女の魔法陣から手とロッドを離すと、少女の足が地面につく。そして、少女は口を開いた。
「契約完了」
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