第3話 「喋るのがAIで喋らないのがロボットだ」「違います」

「訓練?」

「いざというときは体で覚えた技術が物を言うのはいつの時代も同じです。貴方の望みは犯罪行為ではないので、僕は止められません。でも、危険度の高い行動をとる人間をそのままにも出来ません。これはそのための妥協案です。テストである程度の点数が取れなければ免許が取れない用に、ある程度の能力があることが確認できなければ害獣駆除なんて危険な真似賛成できません。貴女が大した実力もないのに望んで危険な状況に行きたがるキチガ…いえ、特殊性、え~変わり者ではないと確認させてください」

言葉を選んでそれか。そんなに心配か?兎だよ?角当てられなくでも数発当てれば死ぬやつだよ?


「やらないんですか?」

「やる。やるよ」

やるから、急に表情を消すのはやめてくれ。その体はタダでさえ不気味な形なんだから。普通に怖い。


「害獣角狙うなんて無茶は銃を買ってすぐの人間がやることではないです。最低限止まっている的には100発100中させる必要があります。」

納得はできるが、訓練用の弾は買ってきたこれを使うのだろうか?

収支が大事って言ってたじゃん。


「訓練ではこっちの弾を使います」

そう言ってデウスは山程電磁コイル弾をとりだした。

「こんな量何処に隠してあったんだよ。というかあるなら言ってくれよ」

これ結構高かったんだぞ?


「廃棄物からリサイクルしたろくに充電も出来ない3級品ですが、訓練には十分使えます」

「こんなにあるなら、アタシ弾買わなくて良かったんじゃないか?」

「これはあくまで訓練用。当たっても禄に電気ながれません。あと、非正規の弾なんて常用してたら免許剥奪ものですよ」

「そんなのバレるの?」

「銃が免許制なんです。当然売った弾の数と相手くらい管理してますよ。そこに不自然な食い違いがあればバレます」

確かに。市長さんならそれくらいできるか。


デウスの隠れ家から出て、銃の訓練に取り掛かる。


「ほとんど反動ないな」

「理論的にはコイルガンと一緒ですからね。形は変わりましたが要領は一緒です」

廃棄物集積場をデウス言う通りに走りながら、デウスが動かすドローンを撃っていく。

走ったり、撃ったり、走りながら撃ったり。ひたすらそれの繰り返し。


「とりあえず一周お疲れ様です。マキナさん思ったより体力ありますね」

前から後から様々角度から飛んでくるドローンを打ち続け、気がついたら隠れ家の前まで戻ってた。2時間程度しか走っていないのに息が切れ始めている。

銃の重さはなんてこと無いがドローンを警戒するのが思った以上に疲れる。


「命中率90%。想定よりはよい数字ですけど、あの大きさのドローン相手に外してるようじゃ害獣角は無理ですね。死にます。諦めて安全な仕事しません?」

「もう1周してくる!」

このロボット口悪くない?

90%ってテストだと90点だろ?十分合格じゃん。アタシすごくない?褒めるべきだと思うんだけど。


「どうよ!」

ガッっと走って1時間半で帰ってきた!

電磁ショック弾は、コイルガンで使っていた金属片よりも、でかいくて、軽い。

最初は少し慣れずに外したが、当て方が分かれば後は簡単だった。大きさが揃っているからなれるとコイルガンより遥かに当てやすい。

初めの方こそ何発か無駄にしたが後半は外さなくなった。


「もうバッチリだろ」

「……予想よりはいいペースですけど今のところ命中率98%です。まだまだですね」

「そんなに?すごくない?」

98%は高いだろう?アタシはテストで98点なんて取ったこと無いぞ。

アレだけ勉強した機物取り扱い2種免許も3回目で62点だったし。


「2%で外れる弾に命はかけさせられません。とりあえず99.9%が最低ラインです。あとドローンももっと小さくします」

「どんだけかかるんだよそれ……」

「次からはドローンの数を増やしますし、貴方が優秀ならすぐですよ。」

99.9%ってことは外していいのは1000回に一回くらいか。今何発撃ったっけ?

でも、爺さんなら多分それくらいは余裕だろう。どうせならアタシもそれを目指したいな。


「ちなみに都市で射撃訓練とかやってました?」

「テーザーガンならやったぜ、学校で自衛用の奴作ったから」

「え、それだけですか?」

「免許取れたのこないだだし。あ、でも家は銃も作ってるから構造は知ってた」

「なるほど。……ちょっと想定と違ったので、今日はここまでにしましょう。貴方に合った難易度の訓練をちゃんと組みます」


~~~~~

それから何日か訓練で潰した。もう全く外すことは無いがデウスが命中率にこだわるのでなかなかokが出ない。


訓練は楽しいが、金にはならない。

スーツにブーツ、リュック等々、銃だけじゃなく新調したい装備は山ほどある。

なので普通の依頼も受ける。


「割のいい仕事はねえかなあ」

デバイスを何度更新しても表示される依頼は変わらない。駆け出しのハンターまで対象にしている仕事は子どものお使いに毛が生えたようなやつばかりだ。害獣駆除はデウスに止められてるし。


こないだの犯罪者みたいに人間相手なら簡単なわりにそこそこ貰えるのだが、手配まで行くやつなんてそうそう現れない。

チラシ配りから企業の手伝いなら素材集め、観光案内まで市内で出来る仕事は多くあるが、どれもいまいちピンとこない。都市のギルドはハンターを何でも屋だと思ってないか?

かと言ってアウターのギルドの依頼もなあ。共通依頼ならともかく向こうに報告に行く必要がある依頼は受けたくない。


「となるとやっぱりこれかね、『外部施設修復』」

年中いつでも通年である共通依頼。


随分昔の話。アタシの爺さんすら生まれる前の話。たくさんいた人間はあらゆるところで戦争して地面をめちゃくちゃにしてほっとんど死んだらしい。そこで生き残ったのがアタシたちのご先祖様だとか。んで、人間はいなくなっても使ってた建物や施設なんかは残っている。それが旧世界施設。

もっとしっかり授業で習ったがアタシの脳ではこれが限界だった。


大抵の旧世界施設は探索が終わっていて、とっく安全確保されている。そうなった施設は調査用の機械が置かれ、害獣が寄らないように壁なんかが整備されていて、害獣を狩るハンターたちの拠点にもなっている。

ただ、人気があるのは一部の良い狩り場のそばだけで、大抵の施設はめぼしいもの漁られたら放置されている。


『外部施設修復』はそんな放置されている施設に行って安全確認や壁の修復、調査機からデータ回収など細かな作業をする仕事。要は見回りだな。


安全圏を守るための仕事なので大事な仕事ではあるが、施設までの道も(そんなに)危なくないし、初心者向けの依頼だ。遠くて時間かかるところほど人気がない。

これを受けなくなったら脱初心者だとか。逆にこればっか受けてるヒトも居るらしい。


「もしくは『旧世界施設探索』」

こっちは、まだ安全が確保されていない旧世界施設に乗り込んでそこからなんか良さそうなものを持ってくる仕事。

問題は探索の進んで居ない施設ってのは警備システムが生きているのですげえ危険。なのでこれも余り人気がない。


安全で固定収入な『郊外施設修復』か、危険だが一攫千金狙える『旧世界施設探索』か。

いっそのこと、全く新しい施設を探しに行くってのもあるな。



「どう思うよ?」

模範的なソドム市民は、悩んだらAIに相談する。

なので家を出て、都市から出て、デウスに聞いてみる。今日のデウスの体は四角いブロックだった。外に出る気がないらしい。

デウスの部屋の中ではどこから拾い集めたのか幾つものサイバネがうねうねと動きドローンを作っている。器用だなあ。


「『郊外施設修復』一択ですね」

「まあ、そう言うと思ったけどさ」

デウスはドローンを作りながら予想通り、市長さんと全く同じ答えを返してくる。

AIに聞くとたいてい安全な方を進めてくる。


「その装備で旧世界の警備システムに挑むのは無理ですよ。死にますね。害獣の群れに裸で突っ込むより危険です」

デウスはこちらを見ずに馬鹿にしたように言ってくる。全く可愛くない。


「そこまでかよ」

「時期や場所で厳重さが異なるのでの一概には言えませんが、末期は民間でも致死性の警備システムが当たり前でしたからね。そのカッコでレーザーの相手は無謀ですよ」

レーザーってあの金属の加工に使うやつか。確かにレーザーは避けられる気がしない。ご家庭にレーザーがあるとかやっぱ旧世界はすごいな。


「マキナさんの目標は自殺ではなく害獣、機獣の駆除でしょう?それまで糊口をしのぐための仕事なら安全策を獲るのが賢明ですね」

まあ、そうか。『旧世界施設探索』は面白そうだが、必要なのは銃よりも防具や旧世界の知識だろう。アタシにはどっちもない。うまく探索出来たとしても、何を持って帰れば儲かるのかもわからん。


「『郊外施設修復』にするか」

「それが賢明です。施設の場所は近所ですか?」

「近いとこはアウターの奴らの縄張りなのでパス。北の方に人気ない所あるからそこ行こうぜ」

人気ないところは他よりも少し報酬がよい。ほんとに少しだけど。


「場所はおまかせしますが、施設名わかります?設計図用意できるかもしれません」

「設計図?一様ギルドで配られている地図はあるぞ?」

外ではあんまり役に立たない都市のデバイスでも記録した地図くらいは表示できる。


「今の地図あるんですね。ちょっと見せてください。念のために過去のデータと照合して当時の警備システムとか調べます」

「えっと、こことかどうよ?この地図でわかるか?」

デウスにいくつか当たりを付けていた施設の地図を見せてやる。ちょっと遠いが日帰りできなくもない距離だ。


「なるほど。ここですか……」

ドローン作りの手は止まらないが、デウスの意識はそこになく、何やら考え込むようにしている。


「ありました。ナルモの27番ですね。地上1階、地下2階、まあ小規模の設備です。地上も地下も人がいることが前提なのか、警報系がメイン、入ってすぐに死ぬことはなさそうです」

「え?地下?」

「なにか違いました?」

「いや、地下ってなに?」

デウスに施設の詳細図を見せてやる。そこには地上の説明のみが記載されている。


「確かに記載されてませんね。この地図、ところどころ数値が怪しいです。測量とかしてない感じです?」

「そこまでする施設じゃあないってことだな」

ギルドの地図はよっぽどすごい施設でも無い限り、大体はハンターが簡単な測量で測って終わりだ。都市は外に興味ないし、アウターには余裕がない。


「これが昔のなんですけど」

デウスからもらった地図には地下の図面がしっかりと記載されている。


ふうん?これはもしかして、もしかするのか?

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