第25話
アパートに戻り、部屋の扉を見たとき、僕は深いため息をついた。
扉には、赤いスプレーで「出ていけ」と書かれていた。それだけじゃない。ドアノブの上の方が殴られたかのように凹んでいた。そしてその横に、張り紙。大家さんの字で「修理代を請求します」と書かれていた。
「踏んだり蹴ったりかよ」
僕は泣きそうになりながら紙を剥した。
「ねえ、早くしてよ」
「わかってるよ」
怒りっぽく言いながら鍵を開ける。
牧野は真っ先に部屋に入り、玄関で上着も靴下も脱ぎ捨てた。
風呂場で足を洗うと、衣装ダンスから僕の服を引っ張り出して着る。勝手に冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、勝手に開けて飲んだ。そして、勝手に布団にもぐり込み、すやすやと眠り始めたのだった。
いつものように、僕は彼女の服を洗濯し、扇風機の前に掛けて乾かす。
十一時頃には起こせるよう、時計を気にしながら作業した。
一息つくと、座布団を引き寄せ、そこに腰を下ろした。
僕の傍では、「天才」と呼ばれ、羨望の眼差しを向けられる女がいる。幸せそうな顔をして眠っている。
牧野の顔を見ていると、誘われるように、僕にも睡魔がやってきた。抗おうにも抗えず、指の力が抜け、首をかくっ…と折り、そのまま、泥に沈むように、ゆっくりと気を失う。
そして、また、夢を見た。
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