1-4「PGO」
すっかり日が暮れた商店街で、佑心はベンチに腰掛けて自販機の商品を物色する一条をちらりと見た。
「さっきも言ってたゴーストって結局何なんですか?」
「簡単に言うと、魂の欠片みたいなものよ。人が人を殺した時に殺人者の魂は一部引き裂かれるの。それがさっき君が見つけた青白いゴースト。あれは放っておくと、人間に取り憑いて、人間を暴走させる。私たちは取り憑かれた人を憑依体と呼んでる」
あのまま怒りたった佑心と話していても何もならないと、一条は場所を変えて説明し始めたのだった。
「その憑依体を殺すのが役割なんですか、PGOの?」
「その通り。さっきのゴーストは最近都内で話題になってる連続殺人犯のものである可能性が高い。憑依体になる前にパージできたのは幸運だったわ」
「その事件、今朝もニュースでやってました。あの、パージって何なんですか?」
祐心にはまだ未知のものに頭が混乱していた。
「ああ、言ってなかったわね。ゴーストを浄化すること、って言ったら聞こえはいいけど、要はゴーストと憑依体を殺すことをパージって言うの。パージ能力で殺せば、ゴーストが生まれることはない。でもパージは生まれながらに能力を持っていないとできない。PGOは秘密裏に私みたいなパージ能力者をまとめてる。そのPGOを知ってるっていうなら、あなたの家族は不運にも憑依体となってしまった、そうとしか考えられないわ」
佑心はさらに強く拳を握り、唇を噛んだ。一条は祐心の姿に人知れず苦しい表情を浮かべていた。しかし何もしてやれることはないのだ。
「じゃあ。今言ったこと他の人には話さないことね。変人だと思われる」
一条はペットボトルのキャップ部分を指で挟んで持ち上げ、佑心に手を振った。
「じゃあ何で俺には話したんですか?」
「ゴースト見えてるし、パージ能力あるみたいだから、知っておいた方がいいかと思っただけ。PGOのことも誤解されっぱなしじゃ気持ち悪い」
「ちょっ待っ、俺にパージ能力がある?」
佑心は急に立ち上がったせいで何かに躓いたが、一条は気にも留めず肩をすくめた。
「そう。さっきゴーストに触れた時、赤い光を見たでしょ?あれがあなたのパージ能力」
佑心はさっきゴーストを包んだ赤い光を思い出し、自分の掌を見つめた。
「それがあれば、誰のゴーストが家族に憑いたのか分かりますか?」
「え?」
一条は一瞬質問の真意が掴めなかった。
「急にこんなこと聞かされて納得できないですよ。俺と家族の人生を狂わせたやつが誰なのか、俺は知りたい」
「無理よ」
はっきりと言い切った。が、続けた。
「でも不可能じゃない」
佑心は彼女の矛盾に困惑した顔を見せた。
「PGOの情報局には、過去のパージ記録が全て保管されてる。その中にあなたの家族の情報もあるかもしれない。PGO職員なら閲覧許可をもらえる可能性もある」
「じゃあ、俺は、その組織に入る」
佑心のこの発言が一条の表情を変えた。
「分かってない!PGOの任務じゃいつ死ぬか分からない。私だって明日生きてる確証があるわけじゃ……」
しかし佑心の決意は変わらなかった。
「それでもいい。このまま何も知らずに生きていけるほど、俺は不幸じゃない」
一条は彼を止めることはできないと悟った。誰より自分がその不幸を知っているからだ。
「……分かった。私がスカウトしたことにして、週末に一度PGOに連れて行ってあげる。話はそれから」
「ありがとうございます。俺、新田佑心です。今更ですけど」
佑心が自転車のスタンドを外しながら言ったが、一条は一瞥するだけで何も言わず背を向けて立ち去った。
「何なんだよ……」
小さな不満だけが夜道に残された。
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