21-4「エポック」
佑心は敵を睨みつける。その覇気を感じ取って細身の敵は一歩下がった。佑心の周りから瞬時にパージ能力が拡散され、空中四方八方にサッカーボール大の火の玉が現れた。
「な、んなの!」
佑心は足にパージ能力を集中させ、最高速度で昇った。
(今の俺の最高速度で目標まで辿り着く!まだ一条以外知らない俺のパージ能力の使い方。少しはあいつの気も逸らせるはずだっ!)
佑心は大量にある火の玉の中の一つに照準を合わせ、右足を大きく振りかぶった。
「こいつは全部、俺のパージ能力だ。全て、俺の意思、動きに連動しているっ!だあーーー!」
佑心は立ち尽くす半グレ三に向かって、火の玉を蹴り飛ばす。
「一つくらい軽く防げるに決まっ……なっ!」
敵は佑心の蹴った一つを防ごうとするが、向かってきたのは空中にあった全ての火の玉。危機を察した敵は咄嗟に懐から爆弾を取り出した。
「おい、それはっ!」
佑心の赤色の火の玉が地面に衝突し、赤色の光を放った。同時に爆弾により青色の光が放たれた。それらの衝撃波で砂が舞い上がり、敵は崖に打ち付けられた。佑心はすぐに追いかけ、敵の身体を持ち上げて崖上に着地した。
「お前、さっきのはPGOの技術だな!?」(橘さんの使っていたものと同じだ……!)
佑心は悔しさに唇を噛んだ。敵を持ち上げる手に力が入る。パージャーを睨めつける佑心の顔は般若が可愛くみえるほどである。
「ううっ、助けて……」
敵のマスクが波の風ではらりと落ちた。すると、普通の女性の顔が現れた。
「お願い……死ねないの……」
崖の上の二人を風がさらっていく。佑心は生気の無い目でただ俯いて聞いていた。
「もう迷わない……」
佑心は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。暗闇に崖上の二つのシルエットだけが浮かび上がる。途端に間に赤色の光が炸裂し、一つの力がすっと抜けた。
*―*―*―*
東京、雨が降っている。街の廃ビルにも雨が降りかかり、人々を陰鬱な空気に引きずり込んでいる。いつものマスクを外したモモが廃ビルに雑に置かれたソファに横たわっている。彼が細く流したパージ能力は美しい二重らせん構造を取っていた。その中の一部は特に濃いパージ能力で形作られている。モモは無表情でそれを眺めていた。部屋の隅の椅子に腰かける、同じく素顔のモルが文庫本を片手にモモに目を向けた。
「能力で遊ぶな、モモ」
「んー?遊んでる訳じゃねーよ」
モモは落ち着いてパージ能力を消した。そのあたりにはふわふわと余韻が残った。
「慎重に考えろよ。これからの動き次第でどっちに転ぶこともあり得るだろ」
モルは「こころ」を読んでいた。
「現状はこっちにとって芳しくない。ヨニは死んだし、組織内のスパイも捕縛された。」
モモが天井を見つめた。
「大した損失でもねーだろ。」
モルは大きなため息を吐いて、本を閉じる。
「損失うんぬんじゃなくてだな……今だって新田佑心を消すために組織内のやつが動いてる。」
「んー……」
モモはよいしょっとソファから上半身を起こした。モルは椅子から腰を上げて、入り口に置いてあるゴミ袋を両手に持って外に行こうとした。
「なんだ?興味あると思ってたが……」
モモはソファに置いてある自分の花柄模様のマスクをおもむろにつけ始めた。
「あちら様とは、あくまで組んでるだけだ。それに、俺は佑心がおめおめ殺されるとは思ってねえ。」
「?」
「俺は佑心がどこまで来るか見てみたい……」
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