10-1「ブルークリスマス」

 「執行局執行部 青 責任者:船津隆」と書かれた扉が開きっぱなしになり、多くの人が騒がしく出入りしていた。執行局特殊執行部の立ち入り捜査である。すぐ外の廊下で原は腕を組み、川副は自分のネックレスを握りしめて捜査の様子を見守っていた。



 「ちょっと仰々しくない?PGOの中に、しかも青の派閥の中に裏切り者がいるとは思えないんだけど?」


 「昨日は赤のオフィスの立ち入り捜査でしたよね…」


 「ええ。それで一条たち遊びに行ったらしいわよ。なんかあったとか言ってたけど…」


 「佑心君たちがですか?」



 原は意味ありげに川副を見やり、わざとらしく声を張った。



 「まぁあ?デートとかじゃなくて?心とか西村までいたらしいけどね?」


 「そ、そうですか……」


 「あ、やば。私、寮に財布置いてきたわ。これから寮の捜索もされるってのに、ったく」



 原はポケットをがさがさと探し始めた。



 「え……」



 寮の捜索と言う話に、川副は胸のネックレスをさらに強く握った。

 川副は自室の机の引き出しを勢いよく開けた。中を漁って埋もれていた守霊教の教典を取り出すと、引き出しをまた勢いよく閉める。すぐに小物入れに入っている守霊教のバッジを取り出して、ベッドの下から衣装ケースを引き出した。そして、積まれた衣服の奥底に教典とバッジを埋めた。そうやって部屋を騒がしく漁る音に、原は目を伏せた。


*─*─*─*─*


 ふりしきる雨の中、廃ビルに立ち入る黒いフードの男。ビルの中まで激しい雨の音が響く。男がフードを脱ぐと、近未来なマスクが現れた。黒い楕円形が顔全体を覆い、左側に三日月のような白い縁取りがあった。



 「遅かったな、モル。寝不足か?」


 「モモ⁉」



 モルと呼ばれた黒いフードの男は勢いよく後ろを振り向いた。背の低い少年のような顔立ちのモモは背後の鉄骨に佇んでいた。



 「早く上がってこい」



 モルが鉄骨を昇り上に上がると、座しているセトと目が合った。若い女で、モルと同じようなマスクをしている。黒を基調としたマスクに、一本白いラインが目の高さに入っており、その上にギザギザに白く刻まれていて王冠のように見える。



 「おひさー。あっは、ずぶ濡れじゃん!」


 「ほっとけ」



 モモが奥に歩いて行くと、その隣にガンがいた。ガンはモモの側近のような存在だが、モモとは正反対に図体が大きかった。モモは大きな玉座のような椅子に飛び乗った。



 「俺が何を言いたいか、分かってるだろう?次の計画を遅らせる」


 「なんで?さっさと次もやっちゃおうよ?」



 柱にもたれて間延びした声で話すひょろ長い男性、ヨニ。真っ黒なマスクに飛沫のような白い模様がついている。



 「だめだヨニ。あちらからことが大きくなりすぎてるとのお達しだ」


 「やつが捕まったからな」



 ガンは固く閉じていた口を開いた。



 「ああ、組織のやつか……」



 ヨニがニヤリと笑って、モルを見やった。モルは鼻で笑ってヨニから視線を外して言う。



 「PGOは組織内部にも探りを入れてる」


 「バカだね~。あのテロ起こしたのは魄憲だけだってのに」


「いや、セト。あの件に関わっていたモグラは組織には他にもいる。そいつらが見つかれば、あちらにとっては痛手なんだろう」


 「ふーん……」



 モモの指摘に、セトはつまらなさそうに返した。



 「まあ、組織の動向はいつも通りモルに任せる。ヨニとセトは次に備えてろ。割のいい仕事だ、しくじるなよ?」



 モモはニヤリと笑った。



 「ああ、もちろんだ。それに、面白い男を見つけたんでね……」



モルがほくそ笑み首の後ろに手を回すと、太陽のタトゥーがちらと見えた。

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