9-2「余暇」

 移動した先のカフェのカウンターで、一条は壁に双眼鏡を押し当てて向かいのレストランを監視していた。何を隠そう、そこにさっきの人の良さそうでも怪しい男がいるのだ。その隣で佑心と心は退屈そうに飲み物をすすった。



 「一条、なんか仕事できて喜んでないか?」


 「う、うん、留年さんも手を焼くわけだね……」


 「いや、文句言わずに隠蔽してでも残業するとか、会社からすれば最高だろ……」



 西村と日根野はその後ろのテーブル席についていた。



 (けーっきょく、デートは潰れてもたわ……)



 半目でカウンターの三人を見つめる西村だが、日根野はジュースをすすりながら向かいの西村をじーっと見つめていた。



 「あっ、動いた!」



 一条がカウンター席から勢いよく立ち上がった。



 「さ、早くあいつを追――」


 バン!



 突如静かなカフェに突如響いた大きな銃声。客はみな慌て叫び声をあげた。驚いて耳を塞ぐ日根野のことを西村は抱くように庇った。爆音のした方を見ると、拳銃を持った目出し帽の男がいた。その隣にはナイフを持った男がさらに二人いた。



 「全員そこを動くな!」


 (何だよ、こいつら……)



 佑心が図りかねていると、一人の男が気づかないうちに袋を抱えて近くに来ていた。



 「携帯を出せ」



 佑心はいたって落ち着いてスマホを出した。一条、心もそれに続いた。



 「俺たちの要求は、警察にいる仲間の釈放だ!警察が俺らの言うことを聞けば、お前たちは解放してやるから、それまで大人しくしてろよ!」


 「おい、店員!店の電話を警察にかけろ!」



 男らが指示する通り、客が全員地面に座った。犯人三人の視線が逸れている時、佑心と心は手に力を入れた。能力と体術を使えば突破できる。しかし、なんと一条が手を出して二人を制したのだった。



 「だめよ、二人とも」


 「あ?」


 「私たちが動くのはもしもの時だけ…」


 「でも!」



 すぐ前にいる西村も呟いた。



 「そうやな、俺たちで制圧したら事件解決。でも、警察にどう説明する?」


 「っ!」



 佑心は虚を突かれて目を泳がせた。



 「PGO及びゴーストの存在の秘匿のためにも、無闇にパージ能力を行使してはならない。それがPGOの方針で…」


 「そんなの守霊教と同じじゃないか……保守的、権利の独占…」



 悔しそうに呟いた佑心に、一条は言い返せず渋い顔をした。すると、拳銃男が騒ぎ出した。



 「おいそこ!何くっちゃべってんだ!大人しくしろ!打たれてーのか⁉」



 佑心と一条は無言で男を睨み返した。



 「おい!警察がこっちに向かっている!人質に一人誰か取らせてもらおうか!」



 佑心が歯がゆい思いで今にも飛び出しそうなのを我慢していると、すぐ横で一条が派手な音を立てて転んだ。



 「ちょうど良い。お前、こっちに来い!」



 それは犯人の注意を引き、拳銃男が一条の後ろ襟を掴んで立ち上がらせた。立ち上がった一条の表情がちらと見えた。佑心はその笑みを見逃さなかった。



 (こいつ……まさか……)



 だんだんとパトカーの音が大きくなり、一条は襟を掴まれたまま店の外まで連れ出された。

 そのうち到着した警察は店前に出てきた一人の人質と犯人に焦りを見せた。一条は適当に緊迫した空気を演出した。



 「さっさと要求通り仲間を釈放しろ!もたもたしてると、こいつから一人ずつ殺していく!」


 (後はなんとか頼みますよ、西村さん……)



 一条は人知れず口角を上げて店内を見やった。

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