9-1「余暇」

 翌日、仕事を強制キャンセルさせられた佑心、心、一条は観光がてら新宿に繰り出していた。街のビジョンには絶えず守霊教事件が流れている。モールの前で三人はおのおの購入した紙袋を提げてココアを飲んでいた。



 「あったけー……」



 三人の気の抜けた声が重なった。佑心は一条の袋をちらと見て声をかけた。



 「一条、それ貸せよ。ほいっと」



 佑心は訳の分からないという一条の手から袋を抜き取った。



 「佑心って、女子の扱い慣れてるよね?」



 佑心はココアを飲みながら目線だけ一条に向けた。



 「そか?部活にマネがいたからじゃないか?」


 「ああ、女子マネと付き合ってそうな顔してるわ」


 「なんだそれ……」



 淡々となされる会話の隣で、心は偶然ある二人を見つけて、「あ……」と声を漏らした。


*─*─*─*─*


 カフェのテラス席で佑心と西村、心の男子組が座し、西村は肘をついてそのすぐ脇のパラソルがある席の一条と日根野の女子組を面白くなさそうに見つめていた。



 「デートなのに俺らが来ちゃってすみません……」



 佑心が目を細めて苦笑いすると、西村は突然あわあわと手をばたつかせた。



 「てっ、あっ、ちゃ、い……デートやない、やないんやけど……」



 二人の間で両肘をついて話を聞いていた心が佑心の椅子の背もたれにかけてある袋をちらりとみた。袋の中に「守霊教」と書かれた背表紙の本があるのを見つけた。



 「あ、その本……」



 心の呟きを聞いて、佑心は袋から一冊出して見せた。



 「?あ、ああ……本部もきな臭いし、守霊教の事情は知っとかないとなーって」


 「結局休暇じゃなくて仕事じゃん」



 心は苦笑いしたが、西村は手を組んで退屈そうに言った。



 「まあ、佑心たちが心配せんでも大丈夫やろ。テロに関わってたのは一部の教皇派パージャーだけみたいやし」


 「え?」



 佑心と心はシンクロして西村を見た。



 「なんでそんなこと分かるんですか?」


 「まあ、何となくな……」



 西村は視線を外して小さな声で言った。佑心は西村の様子に疑問を持ったが、ちょうどその時隣を通って行った男から異様な感じがした。無意識のうちに立ち上がっていた。



 「ど、どうしたの急に!」



 西村と心はあまりの突然さに目を白黒させた。通り過ぎようとした男は立ち止まり、二人はしばし見つめ合う形になった。賢そうで人の良さそうな男は余裕の笑みを浮かべた。



 「何かご用ですか?」



 心がぽかんとする一方、西村も佑心同様男のことを厳しく見つめていた。一条と日根野も彼らの様子がおかしいことに気づき、「どうしたのー?」と駆けてきた。



 「いや、何でも……」



 にこりと笑って男は去っていったが、佑心はずっとその男の背中から目を離さなかった上額には汗も滲んでいた。佑心が現実に引き戻されたのは、肩に一条の手が置かれてからだった。



 「っ……」


 「ちょっと、何かあったの?」


 「……いや、気のせいだ……」



 一条はすぐに上の空の佑心を睨んだ。



 「うそ」


 「え?」


 「何かあるなら、話して。透明男の時も、佑心の勘は当たってたでしょ?」



 一条が佑心の顎を掴んで顔を近づけた。佑心は呆気にとられて一条の瞳を見つめるだけだった。



 「佑心がどう感じたかは分からんけど、まあ、あの男になんかやましいことがあるんは確かやな……」


 「え?どうして?」



 西村が答えようとしたとき、それを佑心が遮った。佑心は机に両手をついて、西村の方に乗り出したのだった。



 「やっぱり、そうですか!?」


 「え、お、おう……」



 西村は目をぱちくりさせた。



 「根拠はないんですけど、何かあの人、気配が……」


 「よし!二人がそういうなら、捜査官としてじっとしてられないでしょ?」



 一条はニッと笑って、親指をピンと立てた。

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