合同任務編

3-1「青の派閥」

 佑心は飲みかけのスポーツドリンクを床に置いた。ペットボトルの表面は汗をかいていて、つーっと汗が垂れていった。佑心と一条はPGO本部のジムで特訓中であった。



 「光束量の調整はそれなりにできるようになったわね。次は戦闘になった時に力負けしないようにしないと」


 「まさか、筋トレってこと?俺、持久力ならいけるけど筋力はなー……」



 佑心はTシャツの上から自分の細い腕を掴んでふにふに触ってみせると、一条はそれを見て呆れかえった。



 「ま、まあ、筋トレもするにこしたことはないけど、もっと効率的な方法が私たちにはあるわ。パージ能力による身体能力の向上よ」



 佑心は首をかしげた。



 「前にもいったように、パージ能力は魂と強い繋がりを持つ。その繋がりを上手く使えば、人間離れした馬力が出せる!」



一条が憑依体の攻撃をガードした時、憑依体に向かって走り出し跳躍した時、佑心にはいくつか思い当たる節があった。一条は手を叩いた。



 「早速練習するわよ!」



 候補生期間は最低一ヶ月。その間、一条による過酷な稽古は続いた。一条が鬼の形相で筋トレのスパルタ指導をしたり、疲れてきって眠る佑心に心がちょっかいを出したり、それを咎める一条を見て笑ったり。佑心にとっては、部活の練習の光景と何ら変わりない平和なものだった。


*―*―*―*


 九月上旬、赤のオフィスで、佑心は一枚の紙を持って嬉々としていた。



 「おー、合格だ!」


 「やったね!おめでとう!」


 「筆記の方も心配なかったわね!」



 心と一条が隣から覗き込んで一緒に喜んだ。



 「筆記なんだが、聞いてびっくり!史上最高点に迫る勢いだったぞ!今日から佑心は正式にPGO執行局執行部 赤の派閥所属のパージャーだ!」


 「すご!」



 デスクに座っている松本がニコニコしながら言うと、舜が史上最高点という言葉に目をキラキラさせた。



 「ずっと思ってたけど、佑心って結構賢いわよね」


 「そう?」



 佑心は無関心そうに答えた。それから思い出したように松本の前に一歩出た。



 「あ、松本さん、ちょっと相談なんですけど……」



 佑心の話を聞き終えた松本が驚いた声を上げた。



 「え?PGO寮に入る?じゃあ、高校は?」


 「施設も学校も辞めて、PGOの任務に集中したいんです。半端な気持ちじゃ、ここでやっていけないと分かったので……」



 佑心の表情は力強く、松本も深くそれを理解して頷いた。



 「うん。そういうことなら合点承知だ。これから、よろしくな!」


 「はい!」



 すると、突然佑心の後ろにいた一条の目が誰かの手にに塞がれた。



 「だーれだ?」


 「晴瑠さん、バレバレですよ」


 「えー!ちょっとは驚いてくれてもいいのに!相変わらず希和はクールだね~」


 「晴瑠!遠出の任務、お疲れ様だったな!」



 一条の後ろから顔を出したのは、橙寄りの茶髪ボブを揺らした可愛らしい女性だった。佑心が独り言のように「誰……」と呟くと、心が後ろから近付いてきた。



 「日根野晴瑠さん。赤の派閥のパージャーだよ。ここで会うことも多いと思う」


 「へー。俺らより上?だよな?」


 「うん。去年一条さんと三人で二十四歳の誕生パーティやった」


 「はは、仲いいんだな」



 佑心も心も苦笑いした。日根野は佑心に気づき、興味津々といった様子を示した。



 「お?もしやもしや、希和の初めての彼氏かな?」


 「違います!」



 一条はちょっと顔を赤くして必死に否定したが、日根野はずっと面白そうに笑っていた。

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