第22話 トラブルの中心
驚いたな。
強面の男と対峙していたのがまだあどけなさの残る少女だったとは。
「もういっぺん言ってみろぉ!」
「何度でも言ってやるさ。――弱い者いじめをするクズが」
弱い者いじめ?
少女の発言が耳に届いたと同時に、俺は第三の存在に気がついた。
ふたりからほんのわずかに離れた位置で腕を抑えている成人男性がいる。
勝手な推測だが、恐らくあの強面の男が最初に絡んでいった相手があの負傷している男性なのではないか。それを見たあの少女が弱い者いじめと非難している?
負傷している男性はどう見ても一般人。
一方、怒鳴っている強面の方は完全武装の冒険者。
正面からぶつかり合ったどちらがどうなるか……結果は火を見るより明らかだろう。
それにしても……腕を組み、あんな風に啖呵を切っていけるのは凄いな。
相手が大人の男であっても臆することなく立ち向かっていけるなんて、そうそうできることじゃないぞ。
そんな彼女の格好を見ると、武器こそ携帯していないが……たぶん冒険者だろう。
同業者の悪しき振る舞いに我慢ができなかったのかな。
「このガキ……調子に乗るなよ!」
ここで男がまさかの行動に出る。
なんと、腰に携えていた剣を抜いて少女に切りかかったのだ。
大人げないとかってレベルじゃないぞ。
「くっ!」
たまらず駆けだしたが、間に合わないか――と、思った次の瞬間、「ガギン!」という金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。
な、なんだ?
あの子は武器の類を持っていなかったはず。
それなのに、この音は間違いなく武器か防具を使用したもの。
「っ! 防具……?」
答えはそれだ。
さっきまで腕を組んでいたから見えなかったが――彼女の両手には金属製の手甲が装着されている。そこで男の攻撃を受け止めたから、あんな音が出たんだ。
「温いね」
「何っ!? ――ぐあっ!?」
動揺する男には大きな隙が生まれた。
それを逃さず、少女は男のがら空きとなった腹部へ前蹴りを叩き込む。
完全に不意を突かれた形となり、大きく体がよろける男。
普通の女の子の蹴りではあそこまで弱ったりしない。ましてやあれだけ鍛えている肉体を持った大男だ。よほどの威力でなければダメージを与えられないはず。
だが、彼女の放った一撃は確実に効いている。
というより、あの子は戦い慣れているな。
……一体何者なんだ?
「クソッタレが!」
男はヤケクソ気味に突っ込んでくる――が、さすがにこれ以上は見過ごせない。
俺はふたりの間に割って入り、男の剣を指でつまんで凶行を止めた。
「なっ!?」
「そうムキになるな。あまり騒ぎを大きくすると騎士団に連行されるぞ?」
「ぐっ……ちぃっ! 命拾いしたな、クソガキが!」
捨て台詞を吐いて、男は立ち去っていった。
さて、今度はこちらから詳しい事情を聞くとするか。
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